環境問題に関する態度とリテラシー能力が環境配慮行動に与える影響

木村綱希

 人々の環境問題に対する関心は日々高まっている。これには、環境問題が政治や経済と関連が深くなってきていることで、人々が環境問題に対する情報に接する機会が増えたことによるものであると考えられる。しかし、環境問題に対する関心が高まっていくだけでは、「エコ」や「地球にやさしい」という言葉に妄信してしまい、逆に大量消費を招いたりすることで、環境問題を悪化させてしまっている可能性がある。そのような本当に既存の環境配慮行動は正しいのか、既存の環境問題論は正しいのかという観点から、それらを批判している懐疑派という人々が近年登場している。懐疑派の人々の意見は、最近彼らが書籍を出版、マスメディアに出演することにより、影響力が強まってきていると考えられる。彼らの意見にたいしてさらに批判をしている人々もおり、どの意見が正しいのかは一般の人には判断が難しいという状況である。このような既存の環境問題論を支持する危機派の人々と、懐疑派の人々の意見が乱立してしまっている状況の中、様々な環境問題に関する情報を多く集め、それを批判的に読み解くことで正しく環境問題を理解し、それを基に正しく行動をする能力である「環境リテラシー」が環境教育などを中心として注目されている。環境リテラシーが環境配慮的態度や環境配慮行動に与える影響を検討した研究は、今のところ少なく、検討する必要があると思われる。そこで本研究では、懐疑派の登場などによって環境問題の情報が乱立し始めた実情を踏まえ、さまざまな環境問題の情報の中から正しく情報を読み取り、それを基に正しく行動する能力である「環境リテラシー」が、環境配慮的態度や環境配慮行動に与える影響を検討した。
 具体的には以下の3つの仮説を検討した。仮説1では、環境問題の情報を得る際の情報源の多さ、意見接触の多さ、メディアリテラシーが環境リテラシーに与える影響を検討するものであった。これらの要因が高いほど、環境リテラシーが高いと仮説を立てた。仮説2では、環境リテラシーが環境配慮的態度に与える影響を検討した。環境リテラシーが高いほど、環境配慮的態度が高くなると仮説を立てた。仮説3では、環境リテラシーと環境配慮的態度が環境配慮行動に与える影響を検討するものであり、批判のある環境配慮行動と批判のない環境配慮行動では、影響が異なるかどうかを検討した。環境配慮的態度が高いほど批判のある、ないにかかわらず環境配慮行動を行ないやすくなり、環境リテラシーが高いほど、批判のある環境配慮行動は行ないにくくなるが、批判のない環境配慮行動は行ないやすくなると仮説を立てた。
本研究は、東京都板橋区を対象に郵送調査で行われ、2009年9月現在20歳から69歳の800人を対象に行った。期間は2009年10月23日から同年11月11日までであり、回収率は37.7%であった。
 環境リテラシーには、たくさんの情報を集め、それを基にして自分なりの意見をつむぎ上げる主張的側面と、批判的に環境問題に関する情報を読み解く、批判的側面の2つの側面があることが示唆された。両側面ともに環境リテラシーには必要な能力であると考えられる。
仮説1では、情報源が多い、意見接触が多い、メディアリテラシーが高いほど、両側面の環境リテラシーが高くなるという結果が得られ、仮説が支持された。環境リテラシーを高めるには、これら3つの要因を環境教育で育てる必要があると思われる。
 仮説2では、主張的側面の環境リテラシーが高いほど環境配慮的態度を高めることが示唆されたが、批判的側面の環境リテラシーと環境配慮的態度の間には、有意な関係性が見られなかった。主張的側面の環境リテラシーは環境配慮的態度を確固たるものとするが、批判的側面は人によって環境問題に関する情報の読み解き方が違うと考えられ、これにより環境配慮的態度に対しては影響が打ち消されあったと思われる。
 仮説3では、環境配慮的態度が高いほど、批判のある、ないにかかわらず環境配慮行動をしやすくなるという結果が得られ、仮説を支持する結果が得られた。また、主張的側面の環境リテラシーは批判のある環境配慮行動を高める影響が見られ、批判的側面の環境リテラシーは、批判のある、ないにかかわらず環境配慮行動に影響が見られなかった。主張的側面の環境リテラシーが高い人は、情報を集めるプロセスにおいて、批判のある環境配慮行動は比較的多くの議論がなされているので、たとえ批判があるとはいえども、今現在必要とされている行動であると感じ、批判のある環境配慮行動をよりしやすくなると思われる。
 以上から、主張的側面の環境リテラシーは、環境配慮的態度を高め、環境配慮行動を促進するという結果となった。本研究ではあまり影響が見られなかった、批判的側面の環境リテラシーの影響については、今後検討していく必要があると思われる。