mixi内の人間関係がmixi日記意向に与える影響
佐藤 潤
SNS「mixi」における日記行動に対し、日記作者がmixi上で繋がっているマイミクシィとの心理的距離がどのように影響するかを研究した。
インターネット上のSNS「mixi」では日記をつけ、mixi上で繋がっているマイミクシィに日記を読んでもらうことができる。
いわば、mixiはインターネット上で友人に対し自己開示をする場である。
自己開示を促進する要因として、「私的自己意識」と「公的自己意識」のふたつを挙げることができる。
私的自己意識とは、自己の内面に注目が向いていることで、これが高まると我々は自分の動機や欲求に沿った行動をとるようになる。
一方、公的自己意識とは、社会的な自己を意識していることで、他者から評価される場面であったり、人に何かを説明したりするようなときに高まる。
私的自己意識が強く、公的自己意識が弱い状態で、人は自己開示を行いやすいといわれている。
ところで対人場面においては、自己開示は開示する相手との心理的距離が近ければ近いほど促進される。
また、心理的距離が異なる複数の相手と一緒にいる場合、心理的距離が遠い者にあわせて自己開示を行うとされている。
本研究は、SNS「mixi」内で形成している人間関係が、mixiでの日記行動にどのように影響するかを分析したものである。
mixi内は、心理的距離の異なる多数の相手とインターネット上で共存しているという点で特異な場であると言える。
私は、mixi上で繋がっているマイミクシィとの心理的距離が、mixiで日記を書こうとする際の私的・公的自己意識に影響を与え、
日記行動の頻度や日記を書いた際の満足感に影響を与えているのではないかと仮説を立て、検討をした。
本研究では具体的な心理的距離の次元として、「マイミクシィ各個人に対する心理的距離」と、
「マイミクシィをグループに分けた際の、グループに対する心理的距離」を考え、検討を行った。
作業仮説は以下の3つである。
1.全マイミクシィの中で、親しみを感じているマイミクシィの割合が多ければ多いほど、mixi内で私的自己意識が強く公的自己意識は弱くなる。
2.マイミクシィを分類した際、多くのグループに分類できればできるほど、mixi内で私的自己意識が強く公的自己意識は弱くなる。
3.私的自己意識が強く公的自己意識が弱いほど、日記を書く頻度は多く、日記に対する自己満足感は大きくなる。
まず、自分がマイミクシィとして繋がっている人の中で、親しい人の割合が多ければ多いほど、私的自己意識が強くなることがわかった。
また、公的自己意識は、日記作者のマイミクシィが多ければ多いほど強く、日記作者のマイミクシィとの心理的距離の影響は見られなかった。
つまり、作業仮説1の一部は支持されず、作業仮説2は支持されなかった。
次に、日記を書いた際の自己満足感に対する直接の私的自己意識の効果は見られず、
公的自己意識が強ければ強いほど、自己満足感が強いことがわかった。
しかし分析の結果、私的自己意識は公的自己意識を媒介して自己満足感に影響を与えている可能性が示唆された。
この結果は、私的な自己を公的に開示する際、日記として体裁を整える中で公的な自己を意識し、
日記中で美化することで自己満足の効用を得ているのではないか、と解釈することができる。
作業仮説3を支持する結果ではないが、興味深い知見を得ることができた。
日記の頻度は、パソコンから書く頻度と携帯電話から書く頻度に分けて分析を行った。
結果、私的自己意識が強いほどパソコンで日記を書く頻度は多いことがわかったが、携帯電話で書く頻度との相関は見られなかった。
また、公的自己意識はどちらの日記頻度にも影響を与えていなかった。
こちらも作業仮説3を支持する結果ではないが、日記を書くデバイスによって、
異なる心理プロセスを経て日記行動に至っている可能性が示唆された。
今後は、マイミクシィとの心理的距離の他に、日記作者のソーシャルスキルや精神的健康といった
性格特性を考慮に入れた研究が必要になってくると考えられる。
また、twitterなどの新しいインターネットコミュニケーション・ツールと、
自己意識の関係に迫るような研究にも期待したい。