集団での創造的問題解決―批判が創造性に与える影響―
高橋尚子
「三人寄れば文殊の知恵」という言葉からも読み取れるように、人々は集団での合議に対して、「1 + 1 =
2以上の結果が得られるものだ」というような、強い信頼を抱いている。このように、個人では考えつかないような結果が、グループでの課題遂行で生まれることを“創発”という。しかし、多くの社会心理学の研究で、グループでの課題遂行は、平均的な個人を上回る程度で、創発が起きることは非常にまれであるという結果が得られている。
けれども、多くの科学者が共同研究によるアイディアの共有が、発見につながったと述べていることから,ある条件が揃えば,合議は人々が思うような創発の起きる場になると考えられる。近年の研究で、グループのメンバーが均等に発言することや、アイディアを述べた個人でなく、アイディアのみへの批判を行うことが、創発につながるのではないかという知見が得られている。
このような研究を踏まえ、本研究では、どうすればグループで創発が起こるのかを探るために、以下の4つの仮説を立てた。
仮説1. グループのメンバーの発話量は,不均等になりやすい
仮説2. メンバーの発話が不均等な状況では創発は起きにくいが,メンバーの発話量同じ程度になると,創発が起きる
仮説3. 対面状況においても、アイディアそのものへの批判が積極的に行われると、集団の創造性が高まる
仮説4. 対面状況においても、アイディアを述べた個人への批判が行われると、集団の創造性は低下する
仮説を検証するために、大学生を参加者として実験を行った。課題は、「新しい公園の遊具をデザインする」という創造的課題を用いた。参加者は、1人条件・アイディアの批判を積極的にするように、と教示を受ける3人グループ条件・教示を受けない3人グループ条件、の3つの条件に分かれた(1人条件:4名、教示ありグループ条件:9名、教示なしグループ条件:9名、計22名)。1人条件は単独で、3人グループ条件では3人で課題に取り組んだ。
各条件の参加者が考えた遊具の創造性を、CPSSという創造性評価の項目を用いて評定し、条件間で創造性に差があるか、分散分析を行った。その結果,3条件の間で、創造性に差はなかった。このことから、グループでの遂行は、個人による遂行と比べても、創造性が変わらず、グループにおける創発はおこっていないことがわかった。しかし、各条件の創造性の平均値をみてみると、批判の教示を受けた条件が、他の2条件と比べて、高い値を示していた。本実験では、参加者の数が非常に少なかったために、統計的に有意な差が認められなかった可能性もある。
そこで、プロトコル分析とも合わせながら、グループ条件同士の比較を行い、仮説を検討した。
まず、発話量を見ると、教示ありグループでは3人が均等に発話しているが、教示なしグループでは3人の発話量が不均等だった。また、教示ありグループの方が教示なしグループよりも創造性が高い傾向にあったことから、仮説1、2は支持されたといえる。
次に、プロトコルからカウントしたアイディアの批判の数、提案をかねた批判の数、個人への批判の数によって、グループを群分けし、創造性を比較した。その結果、提案をかねた批判が行われると、創造性が高くなることが示唆された。アイディアの批判と個人への批判が行われると,創造性が低くなるということが示唆された。このことから、仮説4は支持されたが、仮説3は支持されなかった。
さらに、プロトコルの質的分析から、以下の4点が示唆された。
1. 互いにアイディアの追加・修正を行うことが,グループの創発につながる
2. アイディアの精緻化が,創発につながる。特に,曖昧なアイディアに関しても精緻化を行うことが重要である
3. 思いつくままにアイディアを述べることが,曖昧なアイディアを述べやすい雰囲気につながる
このように、本研究から、創造性を高めるためには、
1. メンバー間で均等に発言するようにすること
2. 提案をかねた批判を積極的に行うこと
3. お互いにアイディアの追加・修正をおこなうこと
4. 思いつくままにアイディアを述べ、そこからでてくる曖昧なアイディアについても、具体化のために話し合うこと
が重要であると考えられる。今後の研究で、本研究の教示のどの部分が、発話の均等化につながったのか、なぜ発話が均等になると創発が起きるのか、について検討することが望まれる。