説得に及ぼすユーモアの関連感情・無関連感情の効果
上野裕平
本研究では、ユーモアは説得を促進するという先行研究の知見を基に、ユーモアの関連感情と無関連感情で説得に及ぼす効果の差を検討することが目的であった。
はじめに。本論文では従来のユーモアの定義と実際の日常場面でのユーモアとの乖離を指摘し、従来のユーモアの定義から「受け手が「おもしろさ」・「おかしさ」を感知する」という点を差し引き、「送り手が受け手におもしろい・おかしいと感じてほしいと思った刺激において、受け手が送り手の”その意図”を感知すること」をユーモアの定義とした。
次に、先行研究の検討の結果、説得に及ぼすユーモアの効果のうち、ほぼ一貫して、論理整合性を持った効果として主張されているのはユーモアが受け手の感情状態をポジティブにし、その結果としてユーモアが説得を促進する効果を持つという部分であると判断した。よって、本論文でも、受け手の感情状態が説得に及ぼすユーモアの効果において最も強い要因であると考えて議論を進めた。
そして、ユーモアの無関連感情を喚起した場合には、ユーモアが説得を促進する効果における受け手の感情状態への影響がユーモアの関連感情を喚起した場合よりも大きいという予測を立てた。これは、ユーモアの関連感情を喚起した場合には、説得文に対する精緻化が起こるため、受け手の感情状態の効果が抑制されるという根拠に基づいている。そして、以下の仮説1、2を立てた。
また、ユーモアと理解度の関連性において、ユーモアの関連感情を喚起した場合にはその説得文をより精査するため、理解度が促進されると予測した。一方で、ユーモアの無関連感情を喚起した場合には、ポジティブ感情が喚起されることで精緻化が抑制され、説得文の理解度が抑制されると予測した。したがって、以下の仮説3を立てた。
1. 関連・無関連感情に関わらず、ユーモア感情を喚起した場合の方が、ユーモア感情を喚起しなかった場合と比べて説得が促進される。
2. ユーモア無関連感情を喚起した場合の方が、ユーモア関連感情を喚起した場合よりも、より説得を促進する効果が高い。
3. ユーモア関連感情を喚起した場合の方が、ユーモア無関連感情を喚起した場合よりも、よりメッセージ内容の理解を促進する効果が高い。
以上の仮説を基に実験を行ったところ、仮説を支持する結果は得られなかった。
仮説を支持する結果が得られなかった原因としては、操作の段階でユーモア感知の操作には成功していたものの、受け手の気分をポジティブにするという受け手の感情状態まで操作することが出来ていなかったことが挙げられる。
一方で、追加で行った分析によって、ユーモア無関連感情を喚起した場合、ユーモア関連感情を喚起した場合、ユーモアを喚起しなかった場合とでは、ユーモアが説得に影響を及ぼすプロセスが異なることが示された。この結果から、説得に及ぼすユーモアの効果とは「ユーモアが説得に直接影響を及ぼす」のではなく、「ユーモアによって説得の評価軸が変化する」ということであるということが示唆された。
また、ユーモアによって評価軸がどのように変化するかについてもいくつかの示唆を得た。まず、態度については、事前にユーモアが含まれた文章を読むことによって、説得文に対するユーモア感知が態度に正の影響を与えるようになるということ。これは事前にユーモアが含まれた文章を読むことによって、説得文の評価におけるユーモアの重要度が上がったことが理由だと考えられる。
また、説得文にユーモアが含まれていない場合は、「説得自体の評価」が説得文の評価軸となるが、説得文にユーモアが含まれている場合は「ユーモア評価」が説得文の評価軸となりうる。この、「対象」から「自己」への評価軸の変化が説得に及ぼすユーモアの効果の正体ではないかと考えられる。
さらに、メッセージ評価については、事前にユーモアが含まれた文章を読むことによって、送り手好意という評価軸が消えた。これについては、本来密接に関係しているはずの送り手好意とメッセージ評価が、事前にユーモアが含まれた説得文を読んだことによって独立するという効果がある可能性が考えられる。
そして、説得文にユーモアが含まれていない場合は送り手好意がメッセージ評価の評価軸となりうるが、説得文にユーモアが含まれている場合には送り手信頼がメッセージ評価の評価軸となりうる。つまり、ユーモアが説得文に含まれていることによって、「好意」から「信頼」へと評価軸が変化するという効果が考えられる。
このように、ユーモアには、説得ないしメッセージ評価の評価軸を変化させるという効果があるということが本実験で示唆されたといえる。