青山 誠
近年、国や地方自治体がボランティアの必要性を宣言し、またボランティアを利用した活動を行っていくなかで、ボランティア活動に対する需要が高まっている。しかし、ボランティアに対する人々の関心は芳しくなく、ボランティアに対して人々がどのように関心を持ち、ボランティア活動の参加意向をどのように促進できるかについてのメカニズム解明は大きな課題といえる。実際、このような心の動きを社会学的・質的に分析している例は数多く存在している((佐藤,2009)(高木,2009)など)。にもかかわらず、社会心理学の研究においてボランティア活動に関する心の要因を定量的に扱ったものは少ない。だが、ボランティア行動が無償の活動であることが多い以上、金銭ではない何らかの心の動きによって体が動かされたものと考えるのが当然であろう。そこで、「ボランティア活動への参加意向に対する促進・抑制要因について」の検討を行った。
調査は、東京都板橋区在住の20歳から70歳までの成人男女798人を対象者とした郵送調査により行った。有効回答者数は296人で、送付数=798、無効回答数=12であり、回収率は37.65%となった。
検討に当たっての理論仮説としては、「ボランティア行動への参加はどのような個人的・心理的要因によって促進・抑制されるのか」という仮説を立て、それを作業仮説に分けて分析を行った。
作業仮説としては、偽善的なボランティアを紹介される条件と非偽善的なボランティアを紹介される条件で異なった結果が出ると考え、仮説を分けた。仮説は以下のものである。
・偽善条件のとき
1−1 一般的信頼感が高い人も低い人もあるボランティアへの胡散臭さは変わらない
1−2 信頼検知能力が高い人も低い人もあるボランティアへの胡散臭さは変わらない
2−1 あるボランティアを胡散臭いと感じたとき、その類のボランティアに対する参加意向が下がる
2−2 一般的信頼感が高い人も低い人もその類のボランティアに対する参加意向は変わらない
2−3 一般的互酬性が高い人は、その類のボランティアに対する参加意向が高まる
・非偽善条件のとき
3−1 一般的信頼感が高い人は、あるボランティアへの胡散臭さが下がる
3−2 信頼検知能力が高い人は、あるボランティアへの胡散臭さが下がる
4−1 あるボランティアを胡散臭いと感じたとき、その類のボランティアに対する参加意向が下がる
4−2 一般的信頼感が高いとき、その類のボランティアに対する参加意向が上がる
4−3 一般的互酬性が高い人は、ボランティアに対する参加意向が高まる
調査の結果、偽善的なボランティアを紹介されるか、非偽善的なボランティアを紹介されるかで、ボランティア活動への参加意向に対する促進・抑制要因が異なることが分かった。
まず偽善条件であるが、この条件ではボランティア活動への参加意向に対して、胡散臭さが負に、互酬性が正に直接の影響を及ぼしていた。つまり、偽善条件においては、仮説はすべて支持された。
次に、非偽善条件であるが、この条件ではボランティア活動への参加意向に対して、胡散臭さが負に、一般的信頼感が正に、直接の影響を及ぼしていた。また、その胡散臭さに対して一般的信頼感が負に、信頼検知が正に、互酬性が負に影響を及ぼしていた。つまり、
3−1 一般的信頼感が高い人は、あるボランティアへの胡散臭さが下がる
4−1 あるボランティアを胡散臭いと感じたとき、その類のボランティアに対する参加意向が下がる
4−2 一般的信頼感が高いとき、その類のボランティアに対する参加意向が上がる
については、結果が支持されたが、
3−2 信頼検知能力が高い人は、あるボランティアへの胡散臭さが下がる
については、逆の結果となり、
4−3 一般的互酬性が高い人は、ボランティアに対する参加意向が高まる
については、ボランティア活動への胡散臭さを介して結果が支持された。
このような結果が得られたことで、ボランティア活動の参加意向をどのように促進できるかについてのメカニズム解明に役立つと考えられる。
今後は、「偽善」や「胡散くささ」といった概念の定義をよりはっきりさせつつ、実際に実験者が実験参加者に対面してボランティア参加を説得されるなどの質問紙実験以外のよりリアリティの高い実験を行うことが期待される。