対人影響と影響集団の選択について

平岡 弘行

私たちは普段の生活において他人に頼みごとをしたり、逆に他人から頼みごとをされたりしている。普段から何気なく行っている頼み事であるが、その頼み方は毎回同じというわけではない。私たちはいったい何の影響を受けて頼み方を決定しているのであろうか。

コミュニケーションの目的の一つに他者に影響を与えるというものがある。他者に影響を与えることを社会心理学においては対人的影響と呼んでいる。対人的影響には意図的なものと非意図的なものがあり、上記の頼み事は意図的な対人的影響に分類される。意図的な対人的影響には依頼・要請、指示・命令、説得などがある。意図的な対人的影響は他者に対して意図的に働きかける。その働きかける際の目標を影響目標といい、今井(2005)によって5種類に分類されている。

意図的な対人的影響は主に説得を中心に研究されてきた。依頼・要請も説得もどちらも与え手が受け手に対して与え手が望むように受け手の態度、行動、情動を変容させるものである。両者の間に明確な区別はないが、依頼・要請は説得と比較して情報量や論拠が少なく短期間的なものであるとされている。また説得におけるメッセージを特に説得メッセージと呼ぶが、依頼・要請における他者への働きかけは影響手段と呼ばれる。影響手段の種類は研究によって異なるが、今井(2005)の分類に従えば単純依頼、理由提示、資源提供、正当要求、情動操作の5種類となる。

影響手段の選択に関する規定因であるが、Cody & McLaughlin 1980)によって親密度、社会的影響力、抵抗可能性、正当性、個人の利益、長期的な関係への影響の6次元の場面が抽出されている。特に組織内における社会的影響力と正当性の2つの次元は多くの研究がなされており、影響手段の選択可能性における一つの結果を示唆している。

依頼という行動はそもそもコミュニケーションの一種であり、与え手と受け手の相互作用性が当然考えられるが、過去の研究においてほとんど注目されてこなかった。依頼に対する受け手の反応として今井(2006)は積極的応諾、納得的応諾、表面的応諾、回答保留、無視、反発・抵抗、拒否の7つを挙げている。依頼する内容や状況によっては受け手のネガティブな反応も当然予想されるわけだが、これまでの研究では受け手に対してただ依頼するというものが圧倒的に多かった。

そこで本研究ではCody & McLaughlin (1980)の示した6つの次元のうち親密度と抵抗可能性の2つの場面次元に加え、初めに単純依頼を行った後の受け手の反応を示した上での影響手段の選択可能性について検討した。その際に場面次元と受け手の反応の影響を受けると思われる3つの心理変数を想定し、さらにその3つの変数による影響手段の選択可能性への影響について検討するというモデルを立てた。また影響手段の持つ特性として、ある影響手段を選択することによる与え手の感じる負担と、受け手から応諾を引き出す有効性を考えた。

実験は東京の大学に通う大学生103名を対象に質問紙実験を行った。男性63名、女性39名、性別不明1名であった。また平均年齢は21.03歳であり、最低年齢は19歳、最高年齢は25歳であった。実験では場面想定法を用いた。与え手が受け手に対してノートまたはお金を借りるという2種類のシナリオを用意した。被験者間要因は親密度(高低)と受け手の反応(反発/拒否)の2要因4条件で、これに被験者内要因である2種のシナリオ(抵抗可能性(高低))を加えた被験者間2要因、被験者内1要因の2×2×28条件であった。

3つの変数である応諾期待度、応諾予想度、依頼適当度を単純加算にて尺度構成した。また被験者内要因である抵抗可能性の操作チェックを行ったところ有意な差が出た。

各条件の応諾期待度の平均値を分散分析した結果、親密度と抵抗可能性において有意傾向がみられた。

各条件の応諾予想度の平均値を分散分析した結果、2次の交互作用が有意になり単純交互作用、さらに単純主効果の検定を行った。その結果、抵抗可能性低条件において受け手の反応拒否条件における親密度の単純主効果および親密度低条件における受け手の反応の単純主効果、受け手の反応反発条件において抵抗可能性高条件における親密度の単純主効果および親密度低条件における抵抗可能性の単純主効果で有意な結果が得られた。

各条件の依頼適当度の平均値を分散分析した結果、親密度と抵抗可能性において主効果に有意な結果が得られた。

影響手段の選択可能性について3変数を独立変数に重回帰分析を行った結果、与え手の負担が大きい影響手段では依頼適当度が、有効性の高い影響手段では応諾期待度がそれぞれ有意な影響を与えていた。

受け手の反応は場面要因と比較してその影響はかなり小さく限定的である。与え手と受け手の相互作用が小さい場合、与え手は影響手段の選択に関してほとんど影響を受けないようである。今後は与え手と受け手との相互作用が大きくなった場合の影響手段の選択可能性について考えていく必要がある。