環境保護的バイコットに関する検討

菊池 悟史

 近年、日常的に多数のメディアが環境問題を取り上げ、人々にエコの意識が浸透してきている。それにともない、多くの企業は環境に対する取り組みを積極的に行なっている。このような環境問題に対する世論の高まりに伴い、一般的な消費者向けの、環境に配慮した商品、環境問題をテーマとした環境広告も今や珍しくない。人々の消費生活も変容し、消費者が環境に良いものを選ぶ時代へと変化しているようである。稲増 & 池田(2008)によると、環境保護的視点からの製品選択は環境保護的バイコットという。バイコットとは、“boycott”(不買運動)と “buy”(購買)を組み合わせた造語であり、政治、倫理、環境保護などの観点から、購入する商品を選ぶ行動を指している。社会学・経済学などの分野における多くの研究において、消費行動は極めて個人的な欲求に基づく行動(エゴセントリックな行動)として捉えられてきた。しかし、消費生活は私的領域であるからといって、人々が過剰に包装された商品やガソリン排出量の多い車などを購入することは、個人の問題にとどまらず、地球環境の望ましからざる影響を与えることになるというわけで、この論文では環境保護的バイコットを環境問題という観点からだけでなく、公共の問題への参加行動として捉えられている。一つ一つは個人の行動でありながら、蓄積することによって、企業や政府を動かす世論となりうるパワーを秘めたバイコット行動であるが、日本においてはまだまだ浸透しきっているとは言えない。海外では実際に特定のスーパーマーケットで集団によるバイコットを行うなど、消費者ひとりひとりの購買行動をよりよい社会づくりにつなげようという意識を明確にしてバイコットが行われている。そこで、「環境保護的バイコットへと人々を駆り立てる要素をさぐり、よりよい社会づくりのための行動を起こす指標の存在可能性を示す」ことをリサーチ・クエスチョンとして、本研究が行われた。
 具体的には、環境への配慮、情報獲得の度合い(CSR、TV、新聞、インターネットでの)、パースペクティブ・テイキング、有効性感覚(政治、地方自治体、企業に対する)を独立変数、バイコット行動を従属変数、環境情報の共有の度合いを媒介変数とする仮説を立てた。なぜ環境情報の共有の度合いを媒介変数にしたかというと、消費行動には、口コミが欠かせず、消費者のあいだのコミュニケーションや相談の過程は消費者間の相互作用としてとらえることができ、環境保護的バイコットにおいても、他者との相互作用が大事で、他の人と環境情報を共有することによって、さらに環境保護的バイコットへの参加を促すことができるのではないかと考えたからである。
東京都荒川区在住の20歳から70歳までの成人男女890人を対象者とした郵送調査を行い、有効回答者数は353人で、送付数=890、無効回答数=29であったので、回収率は41.00%となった。
 分析では、環境への配慮、情報獲得の度合い(CSR、TV、新聞、インターネットでの)、パースペクティブ・テイキング、有効性感覚(政治、地方自治体、企業に対する)を独立変数、バイコット行動を従属変数、環境情報の共有の度合いを媒介変数としたパス解析を行った。環境保護的バイコットに対する、環境への配慮、環境情報の獲得(CSR、TV、新聞、インターネット)、社会資本(地域の環境美化運動、環境保護推進団体)、パースペクティブ・テイキング、有効性感覚(政治、地方自治体、企業)と多様な独立変数の直接効果を確認することができた。また、それらの内、環境情報の獲得(CSR、新聞、インターネット)、社会資本(地域の環境美化運動、環境保護推進団体)、パースペクティブ・テイキングに関しては、他者との相互作用、すなわち他の人と環境情報を共有することによって、さらに環境保護的バイコットへの参加を促すことができるという結果が出た。TVでの情報獲得に関しても、家族との環境情報の共有度合いが高い場合に関して、バイコット行動の度合いが大きくなることが示された。一つ一つは個人の行動でありながら、蓄積することによって、企業や政府を動かす世論となりうるパワーを秘めたバイコット行動へと人々を駆り立てるには、一人一人が個別に上の独立変数を高める行動をとるということよりも、相互作用をもたらすために環境情報の共有を日常的に行えるような機会、そのような機会を自ら設ける意識を浸透させることが大事になってくるであろう。
また、今回の研究における全てのパス図の矢印の方向を逆にしても成り立つ可能性がある。今回の仮説では、有効性感覚について間接効果は論理的に説明できなかったが、環境保護的バイコットをすることでエンパワーメントをもたらし、有効性感覚が高まることで、他の社会参加に対して有効に機能することが期待できる。今回は解析技術が未熟だったこともあり、パス図の矢印の方向を厳密に特定することはできなかったが、今後は環境保護的バイコットを行うことでどんなエンパワーメントをもたらすかを厳密に検討したい。