栗原 康太
世界最大のSNSであるFacebookは全世界で5億人以上のユーザを抱えているが、日本でのユーザ数は未だに180万人程度で、1億4,000万人のアメリカ、3,000万人弱のイギリス、2,000万人弱のフランスと主要国の中では圧倒的に少ない。日本では2,000万人のユーザを抱えるmixiに始まり、GREEやモバゲータウン、昨今大流行しているTwitterなど、既に大部分のユーザに使用されているSNSが存在し、SNS自体が馴染まない風土というわけではなさそうである。それにも関わらず、世界70カ国以上で展開され、5億人のユーザ数を誇るまでに流行しているウェブサービスがなぜ日本ではこれほどまでに浸透していないのであろうか。
インターネットに関するこれまでの社会心理学的研究ではインターネットユーザのインターネット及び、インターネットコミュニティの利用動機や、その結果もたらされる心理的効果を調査したものがほとんどであった。しかし、これまで蓄積された過去の知見をベースにして、「どのようなサービスがユーザに使われるのか」という未来的な問いに答えることはできていない。そのため本研究は、世界最大のSNSであるFacebookが日本において普及が進んでいない状況を踏まえ、このサービスが「“今後”ユーザに使われるのか」について社会心理学的な観点から答えていく。
1957年にアメリカの国防省にARPAが創設され、1969年にARPAの研究・調査用コンピュータ・ネットワークとして誕生したARPANETを原型に、ネットワークを有効に利用できる様々なコミュニケーション技術が開発され始めた。WWW上に張り巡らされたインターネットの世界によって、ホームページ、2ちゃんねる、ブログなど個人による自己表現やそれに付随して生じる他者とのコミュニケーションを活発化させるツールが次々と生まれ、至るところにインターネットコミュニティが誕生していった。それを明確に可視化したサービスが「WWW上のウェブサイト内で友人・知人関係の構築(ネットワーキング)を目的に、プロフィールや友人リストなどを登録・公開し、総合交流を行うためのコミュニティサイト」と定義されるSNS(Social Networking Service)であり、現在ではインターネット利用者の9割がSNSに代表されるソーシャルメディアを利用していることがわかっている。
日本においてはmixi、Twitterが最も使われているSNSであるが、そこに世界最大のSNSであるFacebookが参入を狙っている。ロジャースのイノベーター理論とムーアのキャズム理論に当てはめれば、mixiはインターネットユーザに対する普及率が23.3%とキャズムを超えてアーリー・マジョリティが採用している段階、Twitterは普及率10.6%とアーリー・アダプターが採用している段階であるが、Facebookは普及率が1.8%を超えた段階でまだまだイノベーター層が利用しているに過ぎない。世界ではTwitterの3倍以上のユーザ数を抱え、アメリカではインターネットユーザの70%に普及しているFacebookはなぜ日本市場でこれほどまでに苦戦をしているのだろうか。
本研究では、その理由をFacebookが持つ(1)誰でも自由に参加でき、誰でも自由に閲覧可能なオープン性、(2)実名登録というルール、(3)フレンド申請機能、などの「アーキテクチャ」がもたらすユーザへの影響の結果にあると分析した。
しかし、海外での状況を見てみると各国のローカルSNSが次々とFacebookに逆転されており、各国独自のインターネット文化、ユーザ特性による影響を乗り越えてFacebookが浸透している。そのため日本においても今後予想される展開として、(1)海外での圧倒的覇権状況、(2)映画『ソーシャルネットワーク』に代表される、メディアによる急速な認知拡大、(3)ビジネス用途SNSとしての利用、などの外的要因によってFacebookが普及していく可能性も併せて提示しておきたい。
Facebookは今後も試行錯誤をしながら、日本へのローカライズを進めるであろう。その際、闇雲に改善を行ったり、ユーザの意見に迎合するだけでなく、日本独自のインターネット文化、ユーザの特性を理解した上で、ローカライズしていくことが普及の近道になることは言うまでもない。これまで社会心理学の分野では蓄積されてきたインターネットコミュニティに関する様々な学術的な知見が最適・最短なローカライズに資すると筆者は信じているし、Facebookのような全世界的なサービスが生まれている今こそ実社会の取り組みと社会心理学の学術的知見を結びつけていくタイミングではないだろうか。