来間 海里
迷惑行動の増加は近年慢性的な社会問題となっており、心理学の分野においてもその解消のために様々な研究がなされている。本研究では小池・吉田(2007)や谷(2008、2010)といった先行研究を受け、状況、性別、共感性、社会考慮、公的自己意識といった各変数が迷惑行動に対する罪悪感に与える影響と、その罪悪感が迷惑行動の生起頻度に与える影響について検討することにより、迷惑行動を抑制する包括的かつ一般的なモデルを構築することを目的とした。
本研究は2010年9月〜11月に東京大学の学生169名を対象として質問紙調査を実施し、得られたデータのうち欠損値のなかった152名分のデータを用い、以下の仮説について共分散構造分析を行った。事前分析の結果、独立変数から有意な影響を受けていなかった社会考慮と公的自己意識についてはモデルから除外することとした。
理論仮説
迷惑行動を行うことに対して罪悪感を抱くかどうかは状況や性別、共感性の影響を受け、その罪悪感が人の迷惑行動を抑制する。
作業仮説
仮説1 単独状況よりも集団状況において、迷惑行動に対して罪悪感を抱きやすい。
仮説2 男性よりも女性の方が迷惑行動に対して罪悪感を抱きやすい。
仮説3 共感性が高いほど、人は迷惑行動に対して罪悪感を抱きやすい。
仮説4 迷惑行動に対する罪悪感が高いほど、迷惑行動は抑制されやすい。
その結果、単独条件よりも集団条件において、また共感性が高いほど迷惑行動に対する罪悪感は喚起されやすく、その結果迷惑行動が抑制されるということが明らかとなった。性別や社会考慮、公的自己意識が迷惑行動に及ぼす影響については、有意な結果を得ることはできなかった。今後は迷惑行動に対する性別や社会考慮、公的自己意識の影響等、本研究で実証することのできなかった部分に関してさらなる検討を加え、モデルの精緻化に努めるとともに、得られた知見を基にして迷惑行動抑制のための具体的な方略を考案していくことが必要であると考える。