荻原 ゆかり
裁判員制度、被害者参加制度の導入という市民の司法参加を推進する施策に関して、専門家は、被害者の感情表出が裁判員の合理的判断を妨げるという懸念を表明している。このため、対被害者認知と量刑判断の関連を実証研究により明らかにする必要性が高まっている。本研究では、白岩・唐沢(2010)の示した模擬裁判場面における被害者参加人の発言に対する第三者効果の生起に着目し、文脈を変えた模擬裁判時においても第三者効果の生起する、また第三者効果が量刑判断に影響を与えるという仮説を設定した。また、第三者効果の促進要因を検討するため、特に自尊心、大衆性という性格特性が第三者効果に与える影響、被害者参加制度に対する事前の態度と第三者効果の関連を検討することにした。尚、白岩・唐沢(2010)から、被害者参加人の表出感情の有無は、第三者効果に影響しないとの予測を立てた。さらに第三者効果は判断バイアスのため、裁判の判決という重大な判断に悪影響を与える可能性がある。そこで第三者効果を低減する方法を模索するため、他者にも第三者効果が生起しているとの情報の有無は三者効果に影響を与えるという仮説も設定した。
以上の仮説を検証するため、東京大学の大学生・大学院生146名に対し、架空の事件を扱った裁判シナリオを含む、質問紙実験を行った。分析の結果、本研究においても被害者参加人の発言に対して、有意に第三者効果の生起が確認された。また、第三者効果は被害者参加人の表出感情とは関連しておらず、この結果は先行研究と一貫していた。第三者効果が大きい個人ほど、有意に寛容な量刑判断をいう結果も白岩・唐沢 (2010) と一貫しており、第三者効果が模擬裁判場面においては行動に影響を与えるという知見が得られた。また、被害者参加制度へのネガティブな態度が第三者効果を促進しており、模擬裁判場面におういてもメッセージ内容へのネガティブな態度が第三者効果を促進することが確認された。他者にも第三者効果が生起しているという情報は、第三者効果を低減させることはできないが、第三者効果が量刑に与える影響を低減させるという新たな知見が得られた。
本研究は、裁判場面において第三者効果が生起し、さらにそれが行動を変化させるという、マスメディア領域以外での第三者効果がもたらす影響について言及したことに意義がある。更に、被害者への態度が第三者効果を増大させること、第三者効果は頑健なため低減させることは困難であるが、第三者効果がもたらす行動を修正することはできるという可能性を示した点で、実際の制度に応用できるという意義があるといえるだろう。