大内 三千生
近年、不景気な経済状況が続く中で、企業の生存競争は厳しさを増している。そこで、スーパーなどの小売業はどのようにして生き残っていくか、マーケティング手法などを駆使して模索している。そのような中で、実際にどのような店舗環境や、それによって生起する感情が購買関連反応にどのような影響を与えるかに関する実証的研究は特に日本においてはあまり多くない。感情を考慮した小売業の店舗研究の例として、代表的な研究にDonovan and Rossiter (1982)がある。この研究では、刺激反応(S-O-R)モデルの枠組みを利用し、感情の影響を測定した。この研究以降、多くの感情を考慮した店舗研究が、S-O-Rモデルの枠組みを用いることとなった。また、O部分には、大半の先行研究が覚醒と快楽の感情を用いている。したがって、本研究でも、このS-O-Rモデルにならい、O部分には、覚醒と快楽の感情を当てはめ、購買関連反応と感情との関連を検証しようと考えた。
さらに、消費者の購買目的によって、購買関連反応に影響を与える感情や店舗環境が異なるのではないかと考えた。例えば、消費者がスーパーに行くに際し、求める店舗環境と、コンビニに行くに際し、求める店舗環境は異なるであろう。スーパーには安くて良いものなどを求め、スピーディーな購買を想定し、店舗に赴くのに対し、コンビニへは、流行の商品や日用品などといった品揃えの良さや、販売員の快活さ、店舗雰囲気の明るさなどを求めて赴くと考えられる。
以上を踏まえ、リサーチ・クエスチョンを「店舗環境は感情を介して、購買関連反応に影響を与えるものや、感情を介さず、購買関連反応に影響を与えるものがある。また、スーパーとコンビニのように異なる店舗業態では、消費者の購買関連反応への感情や店舗環境の影響の仕方が異なる。」とした。
つまり、本研究の目的は、購買関連反応に対して、店舗環境が感情を媒介して影響を与えるといった関連性を明らかにし、感情の重要性を提起すると共に、感情を媒介せず購買関連反応に影響を与える店舗環境を明らかにすること、そして、それらの関連性が消費者の購買目的によって異なるということを示すことである。
店舗環境としてはYoo et al. (1998)の研究を参考にし、品揃え、商品価値、販売員サービス、店舗施設、店舗内雰囲気を用いた。購買関連反応は先行研究で用いられている中から、郵送調査で測定可能と思われる反応、予想外消費時間、予想外支出、店舗態度(好き/嫌い)とした。以上の店舗環境、感情、購買関連反応、そしてデモグラフィック変数を用いて、S-O-Rモデル、スーパーとコンビニの比較を検討した。
東京都荒川区在住の20歳から70歳までの成人男女500人を対象者とした郵送調査を行い、有効回答者数は202人で、送付数=500、無効回答数=8であったので、回収率は41.06%となった。
結果、S-O-RモデルのS-Oについて、スーパーにおいては商品価値が快楽に正の有意な効果を与え、コンビニにおいては店舗内雰囲気が覚醒に正の有意な傾向を示し、品揃え、店舗内雰囲気が快楽に正の優位な効果を与え、商品価値が快楽に正の有意な傾向を示した。次に、S-R、O-Rについて、スーパーにおいては品揃えが予想外消費時間に正の有意傾向を示し、快楽が予想外消費時間に正の有意な効果を示した。そして、商品価値、店舗内雰囲気、快楽が店舗態度に正の有意な効果を示し、店舗施設が負の有意傾向を示した。コンビニにおいては、快楽が予想外消費時間に正の有意傾向を示した。そして、販売員サービス、店舗施設が店舗態度に正の有意傾向を示し、快楽が正の有意な効果を示した。
以上のことから、スーパーとコンビニではS-O-Rの変数間の関係性が異なり、スーパーで有意な効果を示した変数の関係性とコンビニで有意な効果を示した変数の関係性を比較すると、消費者の来店目的に見合った店舗環境を整えていることが、快楽感情、良い店舗態度を引き起こすことがわかった。また、店舗態度がスーパーにおいては予想外消費時間を増やし、コンビニにおいては、予想外消費時間、予想外支出を増やすことがわかった。このことから、スーパーでは商品価値、店舗内雰囲気を、コンビニでは品揃え、店舗施設を重視することがそれらの小売業の売り上げの増加に繋がることが本研究で明らかになった。
さらに、対象とする店舗の業態を考えたとき、今回、スーパーとコンビニはどちらも実用的側面が強い業態であった。それならば、今後の研究では、店舗の業態を実用的次元と快楽的次元(娯楽的次元)でマッピングし、それによって、店舗環境の与える影響がどのように異なってくるかを研究するとよいと思われる。実際に商品に関する先行研究においては実用的次元と快楽的次元を軸とし、商品がどこに位置するか調べた研究も見られる。今後、この商品への考え方を店舗へと拡張し、店舗業態の属性次第で、店舗環境の感情と購買関連反応に与える影響がどう異なるかを検討したい。