方言の使用が印象評価に与える影響〜関西弁話者への対人印象評価の測定と潜在的な方言への態度測定〜

嶋 里美

本研究では、標準語は方言よりも高い評価を得るという仮説のもと、方言の使用が対人評価に及ぼす影響と、潜在的に方言・標準語はどう評価されているのかという、2つの実験を同時に行った。具体的には、標準語と関西弁(大阪弁)の話者への印象評定による顕在的方言への態度と、IATを用いた関西弁と方言全般への潜在的な態度の測定を行い、使用言語の影響を検討した。作業仮説は、以下の4つであった。
 1 潜在的な態度は、標準語を高く評価する
 2 顕在的な態度は、標準語を高く評価する
 3 顕在的方言評価が高くても、潜在的には標準語を高く評価する
 4 標準語話者は、方言話者よりも、好ましい特性を持っていると判断される
被験者として東京大学の学生(男性34名、女性20名の計54名)を対象に実験室実験を行い、顕在・潜在的な方言への態度を測定した。
 顕在的な態度測定は、話者の性別(被験者内)×言語(被験者間)の2要因で実験を行い、matched-guise techniqueを用いて、関西弁の使用が話者の印象評価に及ぼす影響を検討した。被験者を男性話者条件と女性話者条件の2群にランダムに分け、標準語の音声刺激と関西弁の音声刺激に対して、印象評定を求めた。その結果、関西弁と標準語とでは、関西弁条件が魅力、リーダー性、社交性で標準語条件を上回っていた。特に男性話者については、関西弁で話した時の魅力とリーダー性の評価が標準語時よりも高かった。標準語は知性や地位に関しては高く評価されるが、社交性については方言の方が高い評価を得る時もあると先行研究で述べられていた通り、社交性は男性話者・女性話者ともに、方言の方が高い評価を得た。しかし、本研究では標準語話者の評価が高い結果を得る事はできず、仮説2は支持されなかった。この理由は、用いた方言が関西弁であったことや、音声刺激の場面状況がインフォーマルなものだったことによるものと考えられる。
 潜在的な態度測定はImplicit Association Test(IAT)を用いて、「標準語・ポジティブ」「方言・ネガティブ」と「標準語・ネガティブ」「方言・ポジティブ」の反応時間の差から、潜在的な方言への態度を求めた。IATは刺激語が関西方言のみの関西方言IATと、全国の方言を集めた全国方言IATの2種類を用いた。この結果、関西方言IATでも、全国方言IATでも、潜在的な態度では標準語が高く評価されていることが示された。また、顕在測定の結果を用いて、顕在的に方言を高く評価する群と、低く評価する群とで、IATの効果量をみたが、顕在的な態度に関わらず、潜在的には標準語を高く評価するという結果が得られた。よって、仮説1と3は支持されたと言える。仮説4については、標準語話者の方が、話し方がきれいで、外見は肌が白く、服装がフォーマルであるという評価が得られ、部分的に支持された。
顕在的な態度では標準語より方言が高評価であったが、本実験で行った潜在的な態度では標準語・ポジティブ、方言・ネガティブという連合が頑健であることが示された。