日本文化における“自己卑下”―適切な謙遜表現とは?

高橋 慶

「すごく頭が良いですね!!」と他者からほめられた場合、あなたならなんと回答するであろう?「いえいえ、そんなことないです」、「たまたまですよ」、「自分なんてまだまだです」同じ謙遜であっても、その言いまわしは多様である。

先行研究によると、謙遜表現は以下の4種類のタイプに分けることが出来るとされている。1つ目は「若輩者ですが、よろしくお願いします」のように挨拶の場面で用いる謙遜、2つ目は「絵を描くのが本当に上手ですね」⇒「いえいえ。そんなことないです」のように誉められた状況で使う謙遜、3つ目は「素敵な家ですね。私の家よりもずっと大きいです」のような相手を誉める時に使う謙遜、そして、4つ目は「昨日の試験はどうでした?」⇒「(よく出来たと思っているが)あまり出来ませんでした」のように能力を問われた時に使われる謙遜である。このなかでも、本研究では特に2番目の表現方法に注目して検証している。

今までの謙遜をテーマにした研究では、自信的自己呈示条件と謙遜的自己呈示条件の違いについての検討はされていたが、謙遜的自己呈示条件の言い回しによって相手に与えるイメージの違いは検討されていなかった。これを検討するため、本研究では謙遜表現の言い回しを原因帰属の観点から照らし合わせ、質問内容「○○賞(絵画の賞)を受賞するなんて凄いですね!!」という質問に対する答えを6つのパターンに分類した。1つ目は『努力アピール型』で「最初は下手だったんですけど、たくさん練習したんで」などのように、自分の才能を否定し凡人だけど努力でカバーしたという説明をするもの。2つ目は『偶然性アピール型』で「たまたまあの作品が上手く描けただけです」と、 自分の才能を否定し偶然性によって結果が出たという説明をするもの。3つ目は『弱点アピール型』で「絵を描くのだけが取り柄なんで。勉強とか運動とかは全然なんですよ」のように、自分の才能を一部分認めつつも他の弱点をさらけ出すことによって自分を卑下するもの。4つ目は『価値否定型』で「○○賞は応募人数も少ないですし、小さな賞ですので」と、自分の才能は、他者に誉められるほど大したことないと説明することで自分を卑下するもの。5つ目は『お茶濁し型』で「いえいえ。そんなことないです」のように、あえて何に対して否定しているのかを明確にせずごまかすもの。最後の6つ目は『自己向上型』で「もっと上手い人はたくさんいるので、自分なんてまだまだです。」と答え、自分よりも上の人物を例挙げることによって自分を卑下するものである。

 また先行研究では、欧米でよく用いられる自信的自己呈示条件(「ありがとうございます。」などのように誉められた内容を、謙遜無しにそのまま受け入れること)と謙遜的自己呈示条件を比較したものがあったが、謙遜前と謙遜後を比較した研究は見当たらなかった。そのため本研究では、まず初めに謙遜前と後でどのように印象が変わるのかを測定した。(本研究では自信的自己呈示条件を質問紙に加えると、回答のうち1つだけ謙遜表現をしていないため、その目新しさから自信的自己呈示条件への評価が相対的に高くなってしまうという危険性を排除するために、あえて自信的自己呈示条件と謙遜的自己呈示条件の比較はしていない)

そのため、以下のように仮説を設定した。

仮説@:謙遜前に比べて、謙遜後の方が『有能さ』『友好的』『協調性』『勤勉』『すなお』『嫌み』のポイントが上昇し、『自信家』『自己主張』『積極的』『野心的』のポイントが下降する

仮説A:謙遜の言い回しの違いによって、他者に与える印象は異なる。

 その結果、仮説@の部分では予測に反し、謙遜後の方が『自信家』『友好的』『協調性がある』『嫌み』のポイントが上昇し、『有能さ』『自己主張が強い』『積極的』『野心的』のポイントが下降した。また『勤勉』と『すなお』に関しては、有意差はあらわれなかった。

また仮説Aの部分では、仮説通りパターンごとに違いが現れ、『努力アピール型』『弱点アピール型』で回答すると相手に好印象を与えることができるが、逆に『お茶濁し型』や『偶然性アピール型』ではあまり良い印象を与えることが出来なかった。