田中 まきほ
本研究では、環境問題についての関心が高まるにつれて、企業の環境対策が企業イメージや企業ブランドの形成に関わる戦略的なものとなってきた背景をふまえ、世間全般に向けて企業の環境対策を演出的にアピールする環境広告について、それが企業の信頼やイメージにどのようにつながるのか、そこに受け手の一般的信頼や環境への関与はどのように影響を与えるのかについて検討した。
信頼には能力への信頼と意図への信頼があるため、環境配慮の能力と意図両方を強調した能力意図強調条件、環境配慮の意図のみを強調した意図強調条件、どちらも強調しないベース条件の3条件の広告について、被験者間でその企業の環境面での信頼と企業全体への信頼を測定した。さらに回答者の一般的信頼と環境への関与を測定し、「環境配慮の能力・意図を強調した環境広告、意図を強調した広告の企業、あいまいな環境広告の企業の順に、企業の環境的側面の信頼が高い」「一般的信頼が高い人の方が、一般的信頼が低い人よりもあいまいな広告の企業に対する環境配慮意図への信頼が低く、能力・意図を強調した広告の企業に対する環境配慮意図への信頼が高い」「一般的信頼が高い人のほうが、一般的信頼が低い人よりもあいまいな広告の企業に対する環境面への信頼が低く、能力・意図を強調した広告の企業に対する環境面への信頼が高い」「環境的側面の信頼が高いと、その企業全体の信頼やイメージも高い」という4つの仮説について検討した。
調査は、2010年10月22日から11月15日にかけて、東京都荒川区の20歳から70歳までの男女890人を対象に郵送調査で行われ、回収率は41.34%であった。
操作チェックの結果、ベース条件と意図強調条件との間に、能力、意図両者において有意な差が見られなかったため、意図強調条件をベース条件に統合して分析を行った。
分析の結果、能力意図強調条件はベース条件よりも、企業の環境面への信頼が有意に高くなるということがわかったため、1つ目の仮説は支持された。
環境配慮意図への信頼に関しては、自動車メーカーの広告においてのみ、信頼検知が高い人はベース条件において信頼検知が低い人よりも信頼が低くなり、能力意図強調条件において信頼が高くなるという交互作用が見られた。電気機器メーカーの広告では交互作用が見られなかったが、それは電気機器メーカーの広告は対象が企業の商品製造過程での取り組みであり、日常あまり接することがない種類の広告であるため、製造過程についての環境広告を出しているということ自体が環境配慮意図の判断の基準となったためと考えられた。一般的信頼と広告の条件との交互作用は見られなかったが、信頼検知は、一般的信頼の下位概念であり、もともと想定していた一般的信頼の機能であるため、2つ目の仮説は一部支持されたといえる。
企業の環境面への信頼については、一般的信頼も信頼検知も広告の条件との交互作用が見られなかったため、3つ目の仮説は支持されなかった。しかし、環境配慮意図への信頼に対して広告の条件と信頼検知との交互作用が見られ、環境面への信頼については交互作用が見られなかった自動車メーカーの広告において、追加分析で環境配慮能力への信頼に対して交互作用が見られた。このことから、広義の信頼は単純に意図への信頼と能力への信頼の足し合わせではなく、一般的信頼や信頼検知の影響は広義の信頼に拡張して考えることができないという可能性が示唆された。
一方で、企業の環境面への信頼に関して、環境への関与が高い人はベース条件において関与が低い人と信頼が変わらないが、能力意図強調条件において信頼が高くなるという交互作用が見られた。したがって、企業の環境面への信頼については、一般的信頼や信頼検知のような個人特性よりも、環境への関与という後天的要素の方が、より環境広告の情報を精緻に判断するという点において影響を与えていることがわかった。
環境面への信頼が企業イメージに与える影響については、両者の相関が非常に高く、同一のものを測定してしまったと考えられるため、その影響を検討できなかったが、環境面への信頼と企業全体への信頼とは、同一のものとして認知されているという可能性が示唆された。
以上の結果から、環境対策を企業のイメージや信頼の向上につなげるために、企業は具体的な製品や取り組みや、環境対策をしていく意志を盛り込んだ広告を出稿する必要があること、環境対策が企業全体への信頼やイメージにつながる可能性が高いことがわかったため、今後の企業の環境コミュニケーションや企業の有効な戦略に示唆を与えることとなった。
今後は、条件操作を正確に行うとともに、本研究で除いた、環境に配慮する能力のみを強調した能力強調条件についても検討し、企業の環境面への信頼と意図への信頼、能力への信頼がどのような関係性にあるのかを検討すること、環境広告の種類の間での認知のされ方の違いなどを検討していくことが必要である。