秋岡正俊
本研究では、リーダーの集団プロトタイプ性が集団成員に及ぼす影響と、フォロワーの持つ所属集団における社会的勢力の感覚がリーダーの集団プロトタイプ性の影響を受ける際に関与しているかどうかを検討した。仮説は以下の通りである。(1)対立集団課題において、高プロトタイプ・リーダーの不一致指示の方が低プロトタイプ・リーダーの不一致指示に比べて応諾度が高いであろう。そしてその傾向は、集団同一視の低い参加者より高い参加者において顕著であろう。(2)社会的勢力の感覚が高い参加者の方が、感覚の低い参加者に比べて高プロトタイプ・リーダーの不一致指示への応諾度が低いであろう。
実験参加者78名に対立集団課題においてリーダーによって集団規範から逸脱するような不一致指示を出されるというシナリオを呈示し、質問紙への回答を求めた。リーダーのプロトタイプ性の高低と参加者の社会的勢力感の高低をシナリオ内の教示で指示した。質問紙には、高プロトタイプ・高勢力条件用、高プロトタイプ・低勢力条件用、低プロトタイプ・高勢力条件用、低プロトタイプ・低勢力条件用の4種類があり、この4種類を実験参加者にランダムに配布することによって各条件へのランダム配置を行った。その結果、(1)の仮説は概ね指示されたが、(2)の仮説は支持されなかった。(1)の仮説が支持されたこと、そして内集団同一視が不一致指示への応諾度に対して負の効果を持つことが確認できたことから、所属集団においてフォロワーは内集団同一視が高いほど集団規範に従った意見を固持しようとするが、そうした内集団同一視の高い集団が対立集団課題に取り組む際、リーダーのプロトタイプ性がもたらす効果によって、フォロワーは集団規範に逸脱したリーダーの指示にも応諾しやすいことが示された。このことは、リーダーのプロトタイプ性が集団において変革型リーダーシップによってフォロワーの態度変容を促しうるということを示唆する結果であったと言える。しかし、社会的勢力感は応諾度に対して何の効果も見られず、プロトタイプ性との間にも交互作用はなく、仮説の(2)は支持されなかった。これは、高プロトタイプ・リーダーが不一致教示によってフォロワーの応諾を得るプロセスを、変革型リーダーシップにおける説得的コミュニケーションを介した指令的変化と同じプロセスとしていた予測とは一致しない結果であった。この結果の解釈として、リーダーのプロトタイプ性がフォロワーに与える影響力はフォロワーの社会的勢力感による応諾度の変化を上回るほど強いものであるという可能性と、リーダーのプロトタイプ性がもたらすフォロワーの不一致指示への応諾は、指令的変化のようにフォロワーの態度変容を促す説得的なリーダーシップとは違う性質のものであり、態度変容というよりは一時的なリーダーの指示への同調を促す限定的なものであるという可能性の大きく二つが挙げられた。
以上から、不一致指示に応諾させるリーダーのプロトタイプ性の影響力の強さがフォロワーの社会的勢力感による応諾度の変化の影響を受けないほど強いものなのかどうか、そしてリーダーのプロトタイプ性の影響力がもたらすのはフォロワーの中長期的な態度変容または一時的に集団規範を逸脱した同調を促す性質のもののどちらなのか、の二点を検討することが今後の課題であり、リーダーのプロトタイプ性が実際の集団においてどのように機能するのかを明らかにするために重要な意味を持つであろうと考察した。