社会的ジレンマの解決において社会関係資本が果たす役割―環境問題と政治について―

坂東俊輔

現代社会は環境問題、食糧問題、少子化など多くの問題を抱えている。それぞれの問題は既に社会に大きな影響を与えているが、その原因の複雑さにより未だ有効な解決策は見つかっていない。現代社会において問題の解決がかつてより困難になっている理由のひとつとして、これらが人間の生活の積み重ねによって生み出されたものであるということが挙げられる。このような人間の日常的な行動によって作られた問題を解決するには科学技術や法制度などからのアプローチでは十分ではなく、人の心のメカニズムにまで迫ることが必要だと考えられる。本研究では社会問題を心理学・社会学的観点から説明する社会的ジレンマを取り上げ、その解決法を検討した。その際、社会的ジレンマ構造を持つ問題として環境問題と政治を研究に用いた。
 社会的ジレンマの解決はこれまでにも多くの研究者によって研究されてきたテーマであり、信頼、互酬性、コミュニケーションなどの概念がジレンマを解決する効果を持つことが示されてきた。しかし、各概念に関する研究はそれぞれ独立したものとして扱われることが多く、社会的ジレンマ解決の効果を持つ概念を統合するような研究はそれほど行われていない。社会的ジレンマについての理解をより深めるためには、これまで独立に行われていた各概念に関する研究を統合し、社会的ジレンマの解決をひとつのメカニズムで説明する必要があるだろう。そこで、本研究ではこの問題に対し社会関係資本を用いて取り組んだ。社会的ジレンマの議論を行うにあたっては実証的アプローチを採用し、海野 (2006)の議論を基に個人が認知する社会的ジレンマをコスト感、危機感、有効性感覚で定義した。社会関係資本についてはPutnam (1993,2000)の議論を参考に信頼、互酬性、ネットワークによる定義を用いた。
 研究は東京都荒川区と小金井市の成人1495人を対象に郵送調査によって行い、社会的ジレンマが認知面と行動面の2段階を経て解決されるという仮説を重回帰分析によって検討した。このモデルでは、社会関係資本によって認知的な社会的ジレンマが解消され、認知的な社会的ジレンマの解消によって協力行動が促進されると仮定した。
分析の結果、仮説は全て支持され、環境問題と政治に関して社会関係資本が社会的ジレンマを認知的に解消すること、社会的ジレンマの認知的な解消が協力行動を促進し、その関係が社会関係資本と協力行動を媒介する役割を果たしていることが示された。