石川亜実
自己卑下は親和希求動機に基づく自己呈示であり、被呈示者からのポジティブな反応を求めて行われていると言える。しかし状況によってはその動機が満たされないことも考えられる。
自己卑下は関係配慮的な自己呈示方略であり、自己卑下の呈示は相手への配慮を示していることから、親しい間柄での自己卑下は心理的一体感の解除を示し、かえってよそよそしい印象を与えると考えられる。また、及び自己評価維持モデルの観点から、被呈示者にとって重要性の高い項目において自己卑下されると、呈示者への反応はポジティブになると考えられる。そこで次のような仮説を立てて相手との親密度の高低、謙遜する項目重要性の高低が、被呈示者が呈示者に感じる心理的距離及び客観的対人印象に及ぼす自己卑下の効果に変化はあるかを検討した。仮説@親密度の高い相手から自己卑下された場合自己卑下呈示者に対して心理的距離を遠く感じ、客観的対人印象は低くなるだろうA重要性が高いと判断する項目において自己卑下された場合、自己卑下呈示者との心理的距離が近くなり、客観的対人印象は好ましく評定されるだろう。また、本研究では親密度と項目の重要性の交互作用も検討した。
三要因二水準の質問紙によるシナリオ実験を行い、相手との親密度の高低、謙遜する項目重要性の高低、自己卑下の有無によって、呈示者が被呈示者に感じる心理的距離及び客観的対人印象に変化はあるかを検討した。心理的距離に関しては「被呈示者が呈示者に取る心理的距離(被呈示者の心理的距離)」及び「被呈示者が予測する、呈示者の取る心理的距離(推測の心理的距離)」の二種を測定した。
結果、仮説@は、被呈示者の心理的距離と客観的対人印象の尺度において支持された。しかし推測の心理的距離に関しては、親密度の低い相手から自己卑下された場合に心理的距離が遠くなるという結果が得られた。仮説Aは支持されず、重要性が低い項目で自己卑下された場合、被呈示者に対してネガティブな効果をもたらした。交互作用に関しては、客観的対人印象においてのみ見られた。尺度によって結果は異なるが、いずれの状況においても自己卑下の効果はネガティブであり、先行研究とは異なる自己卑下の効果が示された。