ステレオタイプが印象形成や対人行動に与える影響について

松江優香里

 これまで血液型ステレオタイプが対人認知の処理に与える影響について様々な研究がなされてきたが、血液型ステレオタイプへの信念の強度が選択的な情報使用や印象形成、対人判断に対して及ぼす効果に関して解釈が異なっていた。また、血液型ステレオタイプが他者に対する実際の態度や行動にどのような影響を与えるかについてはほとんど研究されてこなかった。そこで、今回の実験は血液型ステレオタイプが対人認知に与える影響についてこれまでの研究に基づいて再検証し、さらに血液型ステレオタイプが対人態度や対人行動にどのような効果を持つか探索的に検討した。具体的には、「ステレオタイプは選択的な情報使用や印象形成、対人判断、対人行動に影響を与える」「ステレオタイプに対する信頼が高い人ほど、ステレオタイプに関する知識が多い人ほど、ステレオタイプの実際の対人関係の構築への影響が強くなる」という2つの理論仮説を立てて研究を進めた。

2010年11月〜2011年3月の間に、大学生を中心とした参加者100名に対して質問紙実験を行った。実験の結果、血液型ステレオタイプや血液型ステレオタイプへの信念・知識量が選択的な情報使用、印象形成、対人判断、対人行動に及ぼす有意な効果は見られず、2つの仮説を支持する結果はほとんど見られなかった。よって、血液型性格診断への信念や知識量が認知処理のどの段階にどれほど影響を与えているか再検証することはできなかった。また、血液型性格診断に対する信念や血液型性格診断に関する知識量が対人態度や対人行動の意図にどのような影響を与えるか検討することはできなかった。

 仮説が支持されなかった原因は実験の操作の失敗と参加者の特徴が考えられる。操作の失敗としては、4種類の血液型から血液型を判断しなければならないため、血液型判断の処理が複雑になりはっきりした傾向が表れにくかったことが挙げられる。日常生活における血液型ステレオタイプの影響を考えるためには4種類の血液型すべてを取り扱うような実験を行わなければならないが、血液型ステレオタイプが認知処理に与える影響を検討するためには、判断する血液型を減らし処理範囲を狭める工夫も必要になるだろう。また、実験の尺度も実験操作が働かなかった原因として挙げられる。例えば、血液型性格診断に関する知識量の質問項目は参加者の主観的な知識量を測定したに過ぎず、参加者が実際に持っている血液型性格診断の知識量を測定する項目に改良することが必要である。一方、実験参加者の特徴に関しては、これまでの研究とは異なり参加者の多くが東京大学の学生であったこと、参加者の7割以上が男性であったことが挙げられる。東京大学の学生が多かったことによって、「刺激人物を分析的に認識しようとした」「血液型性格診断の科学的知見を知る機会が多い」「血液型性格診断をコミュニケーションの手段として使う機会が少ない」などの可能性が考えられる。学歴や科学的知見の有無が対人認知処理に与える影響は検討されることはなかったが、今後は血液型ステレオタイプの活性や抑制にどういった効果をもたらすのかも検討する必要があるだろう。また、男性参加者が多かったことで結果が変わった可能性もあり、男性と女性を比較しながら血液型ステレオタイプがどのような場面でどのような人々に用いられているのかを検討していかなければならない。

 今回仮説が支持されなかった原因として、そもそも血液型ステレオタイプの知識が共有されていなかった可能性もあった。しかし、刺激人物をある血液型であると判断した場合、その血液型の特性形容詞に着目しやすく、刺激人物がその血液型の性格特性であるという印象を持ちやすいという結果が示された。ここから、血液型性格診断の知識はある程度共有されており、血液型ステレオタイプは今も浸透していると言える。さらに、刺激人物をある血液型だと判断すると、刺激人物に対する態度や行動意図が変化するという結果も示され、相手の血液型によって態度や行動が異なるという可能性が見られた。

今回の研究から、血液型ステレオタイプが印象や態度、行動に影響を与えることが示唆されており、血液型ステレオタイプが対人関係に影響を与え差別的な行動につながるのではないかと考えられる。今後も、ステレオタイプを介した認知が実際の態度や行動に与える影響も含めさらに詳しく検討していくことが必要となるだろう。