太田昇吾
日本人ならほとんどの人が知っているであろう「血液型性格診断」。血液型と性格には関連があるという信念で、科学的な根拠は無いが、多くのメディアや本で取り上げられ、日常会話でも頻繁に耳にするほど日本ではブームになってきた、娯楽性の高いステレオタイプである。しかしこの血液型ステレオタイプは誤った対人判断を引き起こし、また特定の血液型に対する否定的なイメージから偏見につながる可能性があるという問題点を含むため、どうすれば抑制することができるかを、ステレオタイプの構造、維持される仕組みの観点から考えていく。ステレオタイプは、対象となるものをカテゴリ分けした時、そのカテゴリ内に共通の特徴として信じられている性質のことで、カテゴリ間の差異や自分が属する内集団とそうでない外集団を意識することで生じ、強調される。ステレオタイプが一度形成されると、対象のステレオタイプに当てはまる特性に注目しやすくなり、それが選択的に認知され信念が確証されるという情報処理方略や、繰り返しステレオタイプを経験することでカテゴリに対する知識や概念のネットワークが強固になり自動的に活性化しやすくなることなどにより、ステレオタイプは維持される。血液型ステレオタイプについても同様で、血液型を判断する際特定の血液型の確証的な情報を使用しやすいという研究や、メディアや日常会話における娯楽性から血液型ステレオタイプに接触する機会が多いため血液型と性格の概念の結びつきが強固で、相手の血液型の情報を得ると自動的に性格特徴が活性化されることが、維持、流行の要因とされている。血液型ステレオタイプは、対人判断において多種多様な情報の中から素早く判断するための思考の節約の役割があり、また典型的なステレオタイプ提示によって生まれる笑いや相性占いなどの娯楽性を持つが、血液型による偏見、否定的なイメージに加え、自分に抱かれた信念やイメージに一致するように特性を獲得していく自己成就予言によって性格が決定される可能性といった問題点がある。そこで血液型ステレオタイプの抑制方法を考えるため、Devine(1989)が指摘したステレオタイプの活性段階と適用段階に分けて議論する。まず活性段階、つまり対象を認知した直後に無意識のうちにステレオタイプが自動的に活性化する段階において、ステレオタイプ的知識呈示時に罰を与えることによる抑制と、平等主義のプライミングによる抑制などがある。適用段階、つまり対象を認知してから時間をかけて生起し、ステレオタイプ的な判断や行動の表出を意識的に統制できる段階においては、意図的にステレオタイプを抑制するよう教示することでかえってステレオタイプが活性化してしまうというリバウンド効果に注意しながら、抑制したい否定的なステレオタイプと別次元のポジティブな特性を強調するよう教示をすることによる抑制が効果的であると考えられる。血液型ステレオタイプが維持される要因として、無意識のうちに特定の血液型の確証的な情報を選択することで信念がさらに強化され、繰り返し経験することで自動的に活性化しやすくなるという活性段階の影響が強いと考えられる。そこで、血液型ステレオタイプの抑制方法として、ステレオタイプが形成される幼少期における平等主義の活性化、そしてメディアなど人々が触れる機会の多い情報で各血液型のポジティブな特徴を強調することで、特定の血液型に対して自動的に活性化するステレオタイプをポジティブなものに変えていくという方法を提案する。