信太貴裕
本研究は、BSE問題や未曾有の事態となった福島第一原子力発電所の事故を受け低下した科学技術、科学者、行政への信頼を取り戻す手法として対話型の科学技術コミュニケーション、なかでもコンセンサス会議の有効性を検討することを目的とした。科学技術政策の決定について市民が参加し、対話を行うことの効果は手続き的公正の概念から説明ができ、一般に公正感と満足度の知覚が上昇することが考えられる。本研究ではコンセンサス会議とそれに基づく政策決定の効果について手続き的公正の観点から記述することを目的とし、科学技術政策が決定される以前に専門家による会議が行われるか、市民による会議が行われるか、そしてその会議が実際に政策に反映されるか否かの条件わけを行なってシナリオ実験を行った。
実験により、次の結果が導かれた。政策の公正感については、政策に反映されない今後の参考としての会議を開催し、政府が独自に政策を決定する場合、会議の主体は市民であるほうが専門家である場合よりもできた政策が公正とみなされた。政策決定に関する手続き的公正感については、次の2つの結果が導かれた。政策に反映されない今後の参考としての会議を開催するのならば、その会議の主体は専門家であるよりも市民であるほうが手続き的に公正とみなされた。また、専門家が会議をする場合は、その結果を政策に利用する方が手続き的に公正であるとみなされた。過程コントロール感については次の結果が導かれた。会議の主体が専門家である場合に比べて、市民が主体である方がより高い過程コントロールを感じさせた。会議結果の公正感については、次の2つの結果が導かれた。会議が政策に反映される場合は、その会議の主体が専門家であるほうが市民であるよりも会議の結果が公正であるとみなされた。また、市民が会議を行う場合、会議の結果が政策に反映されない条件の方が会議結果は公正であるとみなされた。政策を決定した政府への信頼については、会議の結果が政策に反映される条件においては、市民よりも専門家による会議を開催する方が高い信頼を得られた。
以上の結果に基づき、専門家と市民にそれぞれ求められる役割の違い、望まれる市民会議の形、円滑な対話型の科学技術コミュニケーションを行うに際し必要であると思われる条件などが議論された。