竹本圭佑
マスメディアがその利用者に対して及ぼす影響についてさまざまな効果が研究されてきたが、その中で明らかにされてきたものに第三者効果と敵対的メディア認知がある。第三者効果とは、自己よりも他者の方がメディアに影響されやすいと認知しがちな傾向のことで、また敵対的メディア認知とは、自己の党派性が強いほど、メディアを自己の立場とは逆方向に偏向していると認知しがちな傾向のことである。またそうした認知に基づいて自己の行動を調整するという効果も含まれるが、その認知的な効果の頑健性に比べ、行動面への効果については知見は一貫していない。行動の指標として、伝統的には社会的に望ましくないメッセージへの規制・検閲への賛成的態度が用いられてきたが、近年では投票参加、政治参加などより直接的な行動が扱われつつある。
本研究でも両効果は政治参加を促進すると仮定するが、その前段階の行動としてコミュニケーションに注目した。第三者効果と敵対的メディア認知はそのメッセージの主題についての会話量を増加させ、結果として政治参加を促進すると仮説を立て、トピックを政権と原発問題・原子力政策の2種類とし、テレビ・新聞・インターネットのメディアごとに検証した。
東京都荒川区在住の69歳までの有権者800人を対象に郵送調査を行った。分析の結果、いずれのトピック、いずれのメディアについても認知的な第三者効果は確認されたが、敵対的メディア認知はまったく確認できなかった。第三者効果の行動的要素については、原発問題・原子力政策がトピックの場合、第三者効果は会話量に影響しなかったが、政権がトピックの場合、その会話量に対しテレビおよびインターネットに対する第三者効果は正の影響を、新聞に対しての第三者効果は負の影響を与えた。また、政治参加を従属変数としたパス解析の結果、政権についての会話量は政治参加に対し正の効果を持ち、各メディア上の政権についてのニュース・報道に対する第三者効果が政権についての会話量を通じて政治参加に影響するという間接効果が確認された。
第三者効果の会話を介した間接的な行動への影響を確認した本研究は、第三者効果研究のすそ野を広げ、ソーシャルネットワーク研究など他領域と併せてメディアの効果を捉えることの重要性を改めて示したものといえよう。