氏名 | 題目 | 概要 |
植村俊介 | 死の顕現性および認知負荷の文化的世界観への影響に関する研究 |
存在脅威管理理論においては存在脅威に対して,文化的世界観の防衛反応によって対処することがさまざまな研究において確かめられている。そのプロセスをより詳細に記述したものがDual-Process
Modelであり,認知負荷を加えることで防衛反応のタイミングに変化があることを検討している。 |
奥田絢 | 時間的距離がポジティブ・ネガティブな出来事への受容感に与える影響についてー出来事の重要度の区分を踏まえてー |
本研究では、心理的距離と解釈レベルの操作は異なるものであり、遠い(近い)心理的距離の操作が必ずしも抽象的(具体的)な解釈レベルの操作と結びつくわけではないとするWilliams
et
al.(2012)の研究結果について、心理的距離を測定する尺度を時間的距離に変更して再確認すること、並びに、ネガティブな出来事に対して、抽象的な解釈が有効だとするWilliams
et al. (2012)の研究と、具体的な解釈が有効だとするWatkins, E., Moberly, N. J., & Moulds,
M.L. (2008)
らの研究の間にある矛盾について、出来事の重要度の区分を設けて検討することを目的とした。実験の結果、ネガティブ・ポジティブな経験ともに、一部のシナリオにおいてWilliams
et
al.(2012)の先行研究の通り、遠い(近い)心理的距離の操作と抽象的(具体的)な解釈レベルの操作が異なる作用をもたらすことを支持する結果が示された。また、シナリオの限定性はあるものの、経験の受けいれやすさに関しては仮説通り、重要度が高いネガティブな経験は具体的に解釈すること、重要度が低いネガティブな経験は抽象的に解釈することが有効であると認められた。つまり、重要度の区分が先行研究間の矛盾点を解消する糸口となる可能性があることが示唆された。
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菊池北斗 | 自由意志信念による性役割ステレオタイプの抑制可能性の検討 |
自由意志の不信が自己制御を抑制し、性役割ステレオタイプを促進させる可能性を検討した。被験者を自由意志、科学的決定論、社会的決定論を強化する条件に分け、潜在ステレオタイプ、顕在的ステレオタイプ、自己制御の指標を測定し、その後自由意志信念を測定した。自由意志操作1要因水準の分散分析の結果、全ての従属変数において有意な結果は見られなかったものの、全体の相関として顕在ステレオタイプと自己制御、顕在ステレオタイプと運命決定論得点が正の相関を持つなど、変数間の関係で一部仮説を支持した。また、自由意志信念因子の得点の高群と低群に被験者を分類し自由意志操作と絡めた2要因の分散分析の結果、自由意志操作と運命決定論高低との分散分析と、自由意志操作と不予期性高低の分散分析に交互作用効果の有意傾向が見られ、社会決定条件において運命決定論の高い人の方が低い人よりも潜在的ステレオタイプが高く、不予期性高群の方が低群よりも顕在ステレオタイプが高いという仮説を支持する結果となった。今後の実験では、日本人の自由意志信念の捉え方に基づいた自由意志操作や測定方法の検討、自己制御と自由意志の関係のさらなる探究、ステレオタイプについて老人ステレオタイプや人種ステレオタイプなども測定し自由意志とステレオタイプの関係の一般化を図ることなどが求められる。
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高野朱香 | 偶発的援助行動に影響する要因の考察―日本人の援助行動に着目して― |
これまで、偶発的な援助行動については幅広い研究が行われてきた。その中で、偶発的な援助行動には個人特性は影響せず、状況要因が影響することがさまざまな研究者によって明らかにされている。Benson et al. (1980)によれば、偶発的な援助場面では、援助を行う可能性がある人は、知らないうちに、予期せぬ、一瞬の、そしておそらく有害な状況に出くわし、その慣れない状況で、全く知らない人に対して素早く決断を下さなければならないため、行動の手引きとして自分の内外の複雑な状況をあてにするのは合理的な事である。しかしながら、国、または文化で偶発的な援助行動を比較した研究はあまり行われていない。本論文では、「日本人は親切だ」という通説の検討を軸として、従来の偶発的な援助行動に影響する要因に関する研究について検討するとともに、新たな枠組みについて考察した。さらに、この新たな枠組みを検証するための研究を行った。
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田中義裕 | スマートフォン利用の社会的帰結 |
本研究では、スマートフォン利用の社会的帰結について論じるため、スマートフォンによるコミュニケーションと社会的寛容性に注目し、5つのリサーチクエスチョンの検討を行った。第1に、スマートフォン利用者と従来の携帯電話の利用者では、コミュニケーションの様相に違いがあるかを検討した。その結果、スマートフォン利用者はコミュニケーション手段、コミュニケーション相手ともに多様性が増していた。また、コミュニケーションの総量もスマートフォンの利用者の方が多かった。第2にスマートフォンの利用で、従来の携帯メールとPCメールの役割は変わったかを検討した。その結果、PCメールは社会的寛容性に対して負の効果を持つという、先行研究と一致しない結果が得られた。また、スマートフォン利用者の方がPCメールの送信数が社会的寛容性もたらす負の効果を強めるという交互作用も確認された。第3に、コミュニケーションの相手が社会的寛容性に与える影響を検討した。その結果、スマートフォン利用は強い紐帯、弱い紐帯とのコミュニケーションをともに押し上げ、その上で弱い紐帯とのコミュニケーションは社会的寛容性を押し上げることがわかった。第4にコミュニケーション手段の影響を検討した。その結果、通話は社会的寛容性に負の効果をもつ傾向にあり、SNSのコメントが正の効果をもっていた。最後にSNS上の情報の異質性は、紐帯の維持と社会的寛容性にどのような影響を与えるかを検討した。その結果、SNSごとに異なる結果が得られ、Facebookにおいて異質な情報が社会的寛容性に正の効果をもち、排除行動が負の効果をもつことがわかった。これらの結果から、スマートフォンはICTによるコミュニケーションを大きく変化させたこと、人々は新しいコミュニケーション手段を社会的文脈によって使い分けていることが示唆された。また、SNSが弱い紐帯とのコミュニケーション手段として重要な役割を果たしており、社会的寛容性に影響を与える情報・対人接触の場となっていることが明らかになった。本研究は、スマートフォンやSNSによる新たなコミュニケーションの現状を明らかにし、ICTによるコミュニケーションと社会的寛容性との関係のモデルを精緻化したと言える。
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平井俊輔 | 組織コミットメントの内在化要素を規定している要因の検討 |
日本的経営が崩壊したといわれる昨今、従来のように年功序列や終身雇用というシステムによって無条件に従業員の組織への愛着や忠誠心を獲得できた時代は終わり、組織を管理する側は別の方法を以って従業員の組織への愛着や忠誠心を獲得しなければならなくなった。そのような時代において注目すべき概念のひとつが組織コミットメントである。
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横尾 健矢 | 「甘え」の仕草についての実証的研究 |
本研究で注目したのは、甘えるときに行われる独特な仕草やふるまいについてである。人は甘えるとき、甘えのときにしか見られない「猫なで声」や「なれなれしい」などのうちくだけた仕草をすることがわかっている。しかし、甘えの仕草がどのように行われるのか、なぜ行われるのかというところがいまだ明らかになっていない。そこで、甘えに独特な仕草がなされる理由について検討すべく、2つの実験を行った。
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岩谷舟真 | 日本における多元的無知の検討 〜対応バイアスと認知的不協和の観点から〜 |
近年の心理学では、人の心は文化によって異なると考えられている。文化の維持に関しては複数のアプローチがあるが、増田・山岸(2010)は「一般に人間はこういった状況でこう行動するだろうといった人間一般についてのモデル(信念)」を用いて人々は行動を行い、その行動が他の人々の信念の内容に反映されるという形で文化が維持されていると述べる。このとき、文化と心は対応するとは限らない。
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大島優迪 | 青年期以降の運動参加動機と心理的欲求について |
本研究の目的は、スポーツがもたらす肯定的側面に端を発し、年齢、性別、身分等の区別なく誰もが気軽に参加し、楽しめる生涯スポーツの実現のために、スポーツライフスタイルの形成期として重要視される青年期と、それ以降の年代の運動参加者を対象とし、自己決定理論(Ryan
& Deci,
2000)に基づく運動に対する動機づけ、心理的欲求、運動強度、競技種目が互いに及ぼす影響について検討することであった。研究の方法は、男性88名、女性16名の計104名を対象とした質問紙調査であった。質問項目は、現在実施している運動1つ、その運動の運動強度、運動における動機づけ、運動における心理的欲求、フェイス項目であった。運動における動機づけは、藤田ら(2009)を参考に、「運動する理由が分からない」という非動機づけ、「周りの人と同じことをしなければいけないことを理由に運動する」という外的調整、「他者の低評価を避けることを理由に運動する」という取り入れ的調整、「健康の維持増進を理由に運動する」という同一視的調整、「運動することで得られる知識や能力を理由に運動する」という統合的調整、「運動すること自体の楽しさを理由に運動する」という内発的動機づけの6つを想定し、因子分析の結果、6因子構造となった。運動における心理的欲求は、廣森(2003)を参考に、運動において「自分が自己決定的でありたい」という自律性の欲求、「自分が有能でありたい」という有能性の欲求、「他者との人間関係が友好的でありたい」という関係性の欲求を想定したが、因子分析の結果、関係性の欲求と「自己効力欲求」の2因子構造と判断した。次に6つの動機づけを運動強度、関係性の欲求、自己効力欲求、年齢、性別によって予測するモデルを立て、重回帰分析を実施した。その結果、運動習慣を定着させるのに望ましいとされる内発的動機づけを喚起するには、運動参加者に対して運動における成功体験や肯定的評価、または自由な競技種目選択権を与えて、運動を通じて自分の力があることを示したいという自己効力欲求を満たすこと、そして運動参加者が、仲の良い仲間と運動参加することなどを通じて関係性の欲求を満たすことが重要であることが示唆された。また、競技種目の違いによって喚起される動機づけや心理的欲求に差が見られるかを分散分析によって検討したところ、サッカーやバスケットボールのような「チームスポーツ」は、テニス、卓球、水泳のような「基本個人スポーツ」、ランニングや筋力トレーニング、ヨガのような「健康スポーツ」に比べて、関係性の欲求が有意に喚起されることが分かった。
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岡田真波 | 制御焦点の活性化が存在脅威管理に及ぼす効果の検討 |
人間には死の不可避性・予測不可能性の認知からくる, 存在論的脅威というものが存在する。この恐怖を緩衝する心的メカニズムを説明する議論として, 近年, 存在脅威管理論が着目されつつある。存在脅威管理理論においては, 死の顕現性が高まると 人は文化的世界観を防衛し, それに適合しているという自尊感情を高揚させることによって, 存在論的脅威を緩衝しようとするとされている (Solomon et al., 1991)。本研究では, 接近目標の達成方略である制御焦点を操作し, 死が顕現化した後の成功恐怖反応および顕在的自尊心に対する影響を検討することを目的とした。存在脅威管理理論における死の顕現化後の諸反応を自尊心向上という目標を伴う自己制御と捉え, 自己制御調節変数としての制御焦点が与える影響を検討した。また, 死の顕現化後の日本人の自己卑下的反応を, 利得獲得を目標とす・髑」進焦点ではなく, 損失回避を目標とする予防焦点をとりやすいという制御焦点の文化差によるものであると仮定し, 制御焦点の文化間差を実験的に同一文化内で操作し, 成功恐怖反応に対する影響を検討した。本研究は質問紙による集団実験で行われ, 78名を参加者とし, 死の顕現性を高めるMS操作をおこなうMS条件と行わない統制条件, 制御焦点の促進焦点活性化条件と予防焦点活性化条件という2要因を組み合わせ, 促進・MS条件, 促進・統制条件, 予防・MS条件, 予防・統制条件の4条件に無作為に配分した。まず制御焦点を活性化させたのち死の顕現性操作を行い, 遅延課題後顕在的自尊心と成功恐怖反応を尺度によって測定した。分散分析の結果, 制御焦点の差異によって, MS処理後の成功恐怖反応が異なるということが示された。よって, 死の顕現化後の日本人の自己卑下的反応は, 他者から嫉妬される損失を回避する予防焦点という文化的世界観に従った防衛反応である可能性が示唆された。しかし自尊心に関しては制御焦点と死の顕現化の交互作用は見られなかった。MS条件の方でより自尊心が向上し自尊心の希求反応が見られたものの, 損失回避行動の継続のために成功期待を控えるはずである予防焦点の方がより高い自尊心を示した。これはHiggins (2008)などで見られた先行研究とは異なる結果であり, 存在脅威管理論の自己制御的メカニズムについては検討することができなかった。意図的にコントロールが可能である顕在的自尊心を尺度として用いたことによる自己欺瞞が発生したことが否定できないため, 今後は, 潜在的自尊心を用いた再検討が必要である。また今回得られた知見はは日本人参加者における制御焦点のMS処理後の反応に及ぼす影響を同一文化内での操作によって検討したものであるが, この文化内差での知見を文化間差に拡大し, 存在脅威管理における心的過程に対する理解を深めるためにも, 今後の欧米などの他文化での比較研究が期待される。
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香川 絢奈 | 企業犯罪・企業不正の防止における組織文化の重要性についての研究 |
1990年代のバブル崩壊以降、企業や官公庁による不正や不詳事があいついで発覚し、深刻な社会不信を招いている(蘭・河野,
2007)。特に企業による不正・犯罪が社会に与える影響は深刻である。企業が守るべき指針となる法律・命令・規則などがいくら制定がされ、法律を社内ルールに転換するための社内制度が整備され、またそれを守らせるべく顧問弁護士が存在していても、企業による違法行為は後を絶たない。そこで、企業の不正防止のために、組織体の本質である組織文化を用いることができないか、検討した。
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川尻 知弥 |
若者の社会的アイデンティティと方言使用の関連、 コードスイッチング意識に関する研究 ―東京圏在住の地方出身者を対象として― |
Tajfel(1982)によると、人はポジティブな社会的アイデンティティを獲得するために内集団の成員に有利な分野において外集団との差異を強調することがあるが、その際集団に特有のことばを用いて内集団と外集団の差異を強調することがある(Hogg
& Abrams、1988)。Giles, Coupland &
Coupland(1991)が提唱した話体応化理論では、相手からの社会的承認を得るために相手の話し方に近付く「収束」、社会的アイデンティティを確立するために相手の話し方から遠ざかる「分離」が見られる。つまり、自集団の言語に切り替えることで自集団の方言や言語の評価を高めて示し、ポジティブなアイデンティティを得ようとするのである(岡本、2006)。逆に言えば、方言や言語について、自集団に対してポジティブな評価、アイデンティティを得られる見込みがない場合は方言を使わないと予想される。
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小神拓也 | 組織コミットメントや組織風土認知が内部申告に与える影響について |
組織において不正行為を目撃したとき、それを誰かに申告するか否かには大きな心理的葛藤を伴う。不正を正すことは正義ではあるが、一方でそれは組織の評判を悪くし、組織の仲間を裏切ることにもつながる行為である。では、そのような葛藤を乗り越え内部申告を行うのはどのような人物なのか。
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小林百合 | 対処的悲観主義者の不適応的側面への検討 |
楽観性と悲観性の比較研究はこれまで数多く行われてきたが、従来の研究では楽観性・楽観主義が適応的で受容されるべきものとして推奨される一方で、悲観性・悲観主義は不適応的でなるべく避けた方がよいものとして扱われてきた。しかしこの主張を覆す新たな枠組みとして、Noremら (1986a) は防衛的悲観主義理論を提唱した。防衛的悲観主義理論では、過去のパフォーマンスに対する認知に加えて、将来のパフォーマンスに対してポジティブな結果を予測するかネガティブな結果を予測するかによって、方略的楽観主義、対処的悲観主義、非現実的楽観主義、一般的悲観主義の4つの認知的方略に分類される。このうち方略的楽観主義者と対処的悲観主義者は、課題遂行面において高いパフォーマンスを発揮し、適応的であることが数多くの研究で示されている。しかし精神的健康面においては、対処的悲観主義者は方略的楽観主義者に比べ、不適応的とされることが多い。これに対してNorem (2001) は、心身の健康面において適応的とされる対処的悲観主義者の存在を見出し、そのような対処的悲観主義者は共通して、自身の認知的方略が機能的であることを認識し、受容しているということを示した。これを受けて、対処的悲観主義者の認知的方略の受容に関する研究が行われてきたが、多くの対処的悲観主義者は自身の認知的方略に対して受容していないか、消極的な受容しかしていない傾向にあることが明らかにされている。対処的悲観主義者に自己の認知的方略の受容を促し、精神的健康を高めるためには、まず受容している人とそうでない人の違いを明確にすべきだろう。そこで本論文では、対処的悲観主義者が意識的・積極的に対処的悲観性を用いるのかということに焦点をあて、自己の認知的方略に対する統制感、承認欲求の個人内バランスの観点から、対処的悲観主義者の細分化に関して考察した。
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酒井真帆 | 逸脱者が持つ集団の代表性と集団への影響力の高低が、集団成員による逸脱者の評価へ与える影響 |
集団の規範を逸脱すると集団内成員から社会的排斥を受けることは多くの先行研究より示されている。本研究では社会的排斥を、「個人・集団が個人・集団によって無視されたり、排除されたりする」とした定義を用いた。本研究では社会的排斥の規定因を特定しその解決策を探ることを目的に、先行研究より社会的排斥の規定因を逸脱者の集団内における地位と逸脱が集団に与える影響の度合いだと仮定し、逸脱者が集団の代表であるか否かは関係なく、逸脱が集団に与える負の影響がある場合逸脱者が排斥を受けやすく、影響がない場合、逸脱者が排斥を受けにくいという仮説を立てた。本研究の意義は、社会的排斥の規定因を特定しようと試みた点、排斥側の心理的プロセスに着目した点、実生活において実現可能な排斥の抑制方法を検討した点にある。
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佐藤優衣 | 死の顕現性が女性ステレオタイプに与える影響 |
死の顕現化により女性ステレオタイプが活性化することが先行研究によって示されており、その女性ステレオタイプが両面価値的性差別理論の観点を踏まえるとどのような結果をもたらすのかが本研究の目的であった。両面価値的性差別理論では、女性に対する性差別をあたたかさ次元と能力次元の両面で捉えた場合に「有能だがつめたい」という敵意的なステレオタイプと「あたたかいが無能・vという慈悲的なステレオタイプで説明できるとした。これを受けて本研究では被験者を男性に限定し、自己の文化的世界観を維持しようとする死の顕現化操作を行ったところ、両面価値的性差別理論を支持する結果は敵意的・慈悲的ステレオタイプの双方から得られなかった。しかしながら、MS処理や女性がキャリア志向もしくは家庭志向であることによって、女性にいだく感情や印象が左右されることがわかった。女性の志向の情報を得ることで軽蔑・尊敬の感情を抱いて評定をしてしまったり、また、そもそも両面価値的なステレオタイプを定義する「有能だが冷たい」という印象評定や「無能だがあたたかい」という印象評定も検出された。また副次的にMS処理を受けることで、キャリア女性の有能さをより高く感じたという結果も得られ、これにより「一生懸命働く女性は優秀だ」というある種の決めつけとも言える価値観が共有されていることを示すことができた。今後、被験者を男性にしぼらずに同様の実験を行うなどの工夫が考えられ、女性の偏見に関しる研究として試金石と言える実験結果が得られた。
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神野祥子 | 内集団卑下を含む発言が第三者の反応に与える影響 |
自分の所属する集団である“内集団”について、集団に所属しない他者に語る場合、どのように語ることが多いだろうか。
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鈴木悠祐 | BtoB企業における広告戦略の考察―コーポレート・ブランドに着目して― |
企業には大きく分けてBtoC企業とBtoB企業がある。これまでBtoB企業ではその性質上、広告活動があまり必要でないと考えられ、研究もそれほどされてこなかった。しかし近年の広告論では短期的な販売促進を目的に行われる広告とは異なる、長期的な信頼関係の構築を目的としたコミュニケーションとしての広告が注目を浴びている。同時に、信頼関係の構築を目指して行われるブランディングにおいても、従来のプロダクト・ブランドとは異なる、コーポレート・ブランドという考え方が登場した。この「コミュニケーションとしての広告」と「コーポレート・ブランド」の理論はBtoC企業を中心に行われているが、BtoB企業でより活かせるのではないかと私は考えた。従って本論文では、BtoB企業における広告の有効性および方向性を示し、今後の広告研究の展望を示した。
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濱垣翼 | 広告で用いられるネガティブアプローチの多面的検討 |
様々な広告手法があふれている今の世の中で、「広告は商品の利点を訴えてくる」という従来の考えを覆した、ネガティブアプローチといわれる手法に注目をした。商品の欠点をあえて主張することで広告表現にインパクトを持たせるこの手法を用いたCMは、確かに自分の中で印象が強く残るものであり、単に普通とは違う表現をすることでインパクトを出しているだけの手法であるとは考えられなかった。
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藤原 瞭平 |
取調べは真実を引き出すことができるのか ―冤罪を引き起こさないための取調べの手法の検討― |
近年、警察・検察等の取調べの在り方に疑問が投げかけられている。それは、被疑者が虚偽の自白をして冤罪に陥れられる危険性の高さにある。再審で無罪判決を受けた者以外にも、起訴後裁判で無罪が判明した者、一度誤認逮捕されたのちに釈放された者も含めれば、冤罪の被害者は3桁に及ぶことになろう。勿論、冤罪の原因は、虚偽の自白以外にも、ずさんな捜査による起訴など様々ある。しかし、取調べの問題点、特に虚偽自白を生みやすい環境である点は、その原因の中でもよく取り上げられる。そこで、本論では、初めに虚偽自白が原因で発生した冤罪事件の事例を取り上げ、それに続いて、虚偽自白が生じる原因の心理学的・刑事訴訟法的側面からの検討をなした。
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二木望 | 実体性が両面価値的な集団への態度に及ぼす影響について |
本研究では、温かさと能力という対人認知における基本次元において、片方はポジティブに、もう片方はネガティブに評価される両面価値的な集団に対して実体性知覚がもたらす影響について検討した。両面価値的な集団においては、温かさ・能力についてのステレオタイプが、感情的偏見を通じて「助成」または「危害」という相反する行動をもたらすことが知られているが、本研究ではこの効果を実体性が調整するという仮説を検証した。具体的には、質問紙実験を実施し、「温かいが有能でない」もしくは「有能だが冷たい」というステレオタイプが抱かれている集団における実体性の程度を操作した。さらに、対象集団における温かさ次元と能力次元のどちらがより顕著であるかを操作した。その結果、高い実体性が知覚される「温かいが有能でない」集団において、ステレオタイプ認知が感情的偏見を媒介して行動をもたらす、というプロセスが生じた一方で、実体性が低い場合にはステレオタイプと行動との間の関連がみられなかった。一方、「有能だが冷たい」集団においては実体性の高低にかかわらずステレオタイプ、感情的偏見、行動の間に関連がみられなかったが、これは外集団との対立状況の有無によるものであると考えられる。以上より、外集団に対してステレオタイプに基づいた行動が生じるためには、その集団の実体性知覚が重要な役割を果たすことが示された。
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ホ エスター シン ユー | 感情心理学における「感動」の研究概要とその考察 |
本論文の目的は、感情心理学における「感動」に関する概念の研究を検討し、今後の「感動」研究においてどのような展開が期待できるかを考察することである。まず、感情の3次元説および情動、気分と情操の分類によって感情を定義し、進化論説やジェームズ・ランゲ説、キャノン・バード説、情動二要因理論、認知的評価理論などの感情起源説を整理した。ところで、感動は従来の感情の定義と起源説によって説明できない部分が多い。近年日本では「感動」を一つの概念として捉えようとする研究が行われるようになってきたが、なかでも戸梶(2001)が提案している感動の喚起メカニズムは多くの研究の基礎となっていると考えられる。戸梶(2001)によると、感動は「喜びを随伴した感動」、「悲しみを随伴した感動」、「驚きを随伴した感動」と「尊敬を随伴した感動」という4つの類型に分類できる。このように感動は複雑な感情を含むものであり、総合的に測定と研究することは難しいため、場面別で検討している研究が主である。
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松本龍児 | 自己と他者に関する自由意志信念が攻撃行動に与える影響 |
近年、社会心理学の領域では「自由意志が存在すると思うかどうか」という自由意志信念が社会的判断や行動に与える影響が実証的に検討されている。例えば、自由意志信念が否定された参加者はその他の参加者よりも強い攻撃行動を示すことが知られている(Baumeister et al., 2009)。大渕 (2000) によれば、攻撃行動には「衝動的攻撃」と「戦略的攻撃」との2つのタイプがあるが、Baumeister et al. (2009) が扱った攻撃行動は、衝動的攻撃であったと考えられる。では、戦略的攻撃に自由意志信念はどのような影響を与えうるだろうか。自由意志信念の肯定は他者の意図性を強め、結果として戦略的攻撃が促進される可能性が考えられる。本研究では、「自由意志信念の肯定が戦略的攻撃を促進する」という仮説を検証するために、参加者が架空の対戦相手とノイズ音を与え合う課題を用いて戦略的攻撃を測定した。実験の結果、自由意志条件において、攻撃特性と攻撃行動との間に有意な相関が見られた。また、攻撃特性の高い人では、自由意志条件で統制条件よりも強い攻撃を示すことが分かった。このことから、自由意志信念の肯定が他者の意図性を高く認知させ、戦略的攻撃を促進する可能性が示された。本研究によって、自己についての自由意志信念と他者についての自由意志信念がそれぞれ異なるプロセスで攻撃行動に影響を与えていることが示唆された。
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