政治的有効性感覚とその規定要因に関する研究
佐野 恭子
本研究は、政治的有効性感覚、ひいては現代的な政治疎外意識の規定要因を探るとともに、小泉内閣の圧倒的な支持率が政治意識にどのように結びつくのか検討することを目的としていた。調査は東京都大田区の有権者790人に対して行い、うち372名の有効回答を得た(回収率47.8%)。
分析の結果得られた知見をまとめると、次のようになる。
1.
バルチの主張通り、政治的有効性感覚は「自分たちが政治に働きかければ、それだけの効果はある」という内的有効性感覚と「政治家や政党、国会などが自分たちの気持ちに応えてくれる」という外的有効性感覚の2つに区分されるという先行研究の知見が確認された。内的有効性感覚はさらに、「自分は社会問題を把握し、社会を動かすことのできる存在である」という因子(「問題把握・解決」)と「政治の争点を理解し、適切な投票先を選ぶことができる」という因子(「争点理解・投票」)の2つに分けられ、前者は学歴や政治関心、後者は外的有効性感覚や年齢、政治関心と強いつながりを持っていた。また、外的有効性感覚については、政党支持やイングルハートの提唱する物質主義志向との関連性が認められた。
2. 現代の日本におけるprivatizationの進行と政治的有効性感覚との関連を調べるため、政治の必要性認知や生活の自己防衛志向を、政治との距離感覚の指標として分析に投入した。その結果、政治的有効性感覚の喪失が政治を遠い存在と位置付ける要因となっていることが分かった。
3.
小泉首相への支持は、人々の内的有効性感覚には作用しないものの、外的有効性感覚とは大きな関連を持っていた。また、小泉首相の人気を支える要素としては、その庶民的感覚や強力なリーダーシップに対する評価が強く関連していた。逆に、自民党との連携や自民党支持の効果は認められず、旧来の自民党政治とは一線を画す故意ず見首相ならではの人気の構図をうかがわせる結果となった。
4.
「社会問題をよく知っている」という個人の能力と「自分の力で政治を動かせる」という効力感との関連性について調べたところ、外的有効性感覚が低い場合や生活の自己防衛意識が強い場合、つまり、問題の解決を政治に頼っても効果が期待できない、もしくは政治に頼る必要性を感じない場合には能力に比して効力感は低くとどまることが確認された。
5.
価値観と政治的有効性感覚の関連では、脱物質主義、社会・理想志向、「心の豊かさ」重視を重複して満たす回答者群において、内的有効性感覚や政治関心が高く、政治を身近に感じていることが分かった。しかし、期待の高さの裏返しか、外的有効性感覚については低く、既存の政治システムの改善を望む傾向が強かった。
6.
政治関心と外的有効性感覚との関連性を支持政党ごとに見たところ、政治関心・外的 有効性感覚ともに高いタイプは与党支持者に、政治関心が高く外的有効性感覚の低いタイプは野党支持者に、政治関心・外的有効性感覚ともに低いタイプは支持政党なしにそれぞれ多いという傾向が見られた。
本研究では主に政治意識の内部的な構造に焦点を当てたために、それが実際の政治行動とどのように結びつくかについては検討を加えていない。政治的疎外意識と政治行動との関連に焦点を当てた研究としては、疎外された投票者は現状の政治システムの敵意や拒否の表出としての政治参加を行うとするレヴィンの「疎外された投票者モデル」(Levin,1960)や、高い政治的不信感と低い政治的無力感の組合せが政治的動員に最も適切であるとするギャムソンの「不信感―有効感仮説」(Gamson,1968)などが挙げられるが、研究ごとに政治疎外の規定概念や調査方法が異なることもあって、必ずしも一貫した結果は得られていない。日本でもその妥当性についての定説はないとされており、今後より一層の研究が望まれるところである。